ドラゴンゲート・岡村隆志社長「まずは基礎をガチガチに固める」
ドラゴンゲートの岡村隆志社長に2015年を振り返ってもらった 【(c)株式会社ドラゴンゲート】
第3回は年間200近い興行数を誇り、そのほとんどの会場で超満員を記録しているドラゴンゲートの岡村隆志社長。“プロレスの聖地”後楽園ホール大会では超満員札止めが続き、また関東圏以外でのビッグマッチでも多くの観客が詰めかけ、その激しく、スピーディーなプロレスにファンが魅了されている。今回は団体運営のポリシーや、今後の展望などについて語ってもらった。(取材日:3月2日)
決してすごいわけではない
ここ最近、選手にはよく言っていますが、「この2、3年は基礎作り」というのが私の中にあります。(集客力が好調ということに関して)お褒め頂くのはありがたいのですが、決してうちがすごいわけではないと思うんですよ。
よく考えて下さい。昔、インディーと呼ばれている団体にとって、後楽園が今の新木場(1st RING)に当たって、両国国技館とかも普通にやっていましたし、ほかのところでは(東京)ドームもやっていましたよね。それがどんどん下がっていっただけで、うちが飛び抜けて成功しているとは思ってないです。基礎を作って、最低ラインを死守しようと思っています。
あとは地方を大事にしていかないといけないかなと。それこそプロレスといえば巡業で、地方を大事にしていたと思います。ただ、だんだん地方での大会が組めなくなり、東京一極集中になってしまいました。だから、地方の興行数を大事にしていかないといけない。これは何年も前から続いています。
揺るぎないものを作るには完全な基礎が必要。例えば、スポンサーとかいろいろなものが入ってきたとしても、中がぐらつくようじゃ(だめです)。団体の崩壊というのは、資金の問題や分裂じゃないですか? その辺りを絶対に崩さないというか、当たり前の話を当たり前にやるというか、お客さんが来て、いい試合をして、また見に来てもらえる。それが太い幹であると思うんですよ。
――基礎というのは、良い試合と集客力ということですか?
そうですね。これは本当に簡単なようで難しいと思います。じゃあ、今日の後楽園が札止めになりましたと。だからといって喜ぶのではなく、来月、再来月までいっぱいにしようよと。それこそ3月のチケットがなければ、4月のチケットはありますと。これが1カ月先の興行も完売になるぐらいまで完璧にしたいです。
プロとしてプロレスだけで生活できる団体を目指す
首都圏以外の会場でも超満員を記録している 【(c)株式会社ドラゴンゲート】
僕はね、ブームじゃないと思いますよ。絶対違うと思います。例えば、“プロレス女子”とか言われていますけど、女性のお客さんはうちには当初からいましたから。
――確かに以前から会場には女性の観客が多く見受けられました。実際、昨年の観客数はどうでしたか?
利益的に考えると、昨年が最高でした。一昨年も最高が出まして、昨年はさらに上回ったという結果です。ただ、昔のプロレス団体は“インディー”と“メジャー”で分けられた時代があったと思いますが、今はこれが“アマチュア”と“プロ”なんじゃないかなと。
実際、プロレス一本で食べていける人が今、何人いるんでしょうか? 夢は夢でいいんですけど、実際、その夢を作る土台が崩壊しているんじゃないかなと。やっぱりその夢と現実のバランスをきっちりさせないと怖いので、その基礎固めはがっちりやりたいんです。
それこそ20代の選手はいいんですけど、30代、40代になって、プロレスだけで生活できるのかと。20代だとデビューが夢になりますが、30代、40代の選手がいて、そのような選手がしっかりと生活できることが大事で、そこは一般の企業と同じだと思います。さらに50代の選手や、半リタイアした選手をどうするかまで考えないと、プロの団体ではないんじゃないかと思います。
――つまりプロの団体として、選手がプロレスだけで生活できる環境を作りたいと?
そうですね。そのためにリング上のレベルアップ、新人育成を行い、いい試合をする。それと同時にお客さんをちゃんと集める。1回見たらもうええわ、というような内容ではダメだと思うんです。大事なのはどれだけお客さんの喜怒哀楽を引き出すか。泣いたり笑ったり怒ったり、それがないと続かないですね。
あとは(集客に関して)地方を別格に仕上げていく。昨年がトータルで198試合をやっているんですが、その8割が完売しています。うちの意識としては、「(観客が)入っています」じゃだめなんです。チケットが常に売り切れる。それを目指していこうと思っています。
――つまり後の2割も埋めていくことで、基礎が完璧になるということ?
だから興業地としては、年に1回のところを年に2回、3回、4回と増やしていき、2カ月に1回まで来たら、2連戦をする。そうやって、地方を仕上げていこうと思います。
これは地の利もありますよね。プロレスは東京で回っているように感じますが、うちは(拠点が)神戸です。だから東京から博多は遠いですけど、神戸から博多はそれほど遠くないですし。近畿地区、中部地区に関して回数を増やせますし、営業にも何回も行けます。
それと地方は、東京との時間差があるんですよね。後楽園の完売が続いていますが、この影響が最初に現れるのが札幌だったりします。ようは、地方に行くまでに時間差があって、逆に言うと、すたれるタイミングも分からないと。だから地方で興行した時に、今が上りなのか貯金だけなのか、そこを見極めないと怖いんです。
今は勢いで伸びてはいますが、同時にほかのところは大丈夫かなと考える。悪い時は誰でもどうしようか考えるのですが、良い時は知らず知らずのうちに考えなくなってしまうものです。ですから、何で今は良い状況なのかをはっきり考えた上で、そこをしっかり見極めて、客観的に見ておく必要があると思います。
――集客に関しては、地方へ行くだけだと、簡単には人が集まらないと思います。
そこは総合力というか、いろいろなものをぶち込まないといけませんね。宣伝があり、営業があり、ポスターを張り、いろいろなものを重ねて、結果が見えてくると。だから僕らは開場の1時間前に、その会場の前を通ったら、どれだけ人が入るか分かるんですよ。「あ、この並び方だったら、今日はいけるな」とか。
東京では人が多いこともあり、マニアックな人が集まります。ですが、地方はそうはいかないので、同じことをやっていてはダメですね。地方は人と人のつながり。それを浸透させるには、知り合いがいたら、その人の10人の知り合いを増やし、そこから増やしていく。地味なのですが、それをやらないとダメだと思いますね。
――そういう活動は専門スタッフが行うのですか?
いや、全員ですね。だから総合力。うちはすごいなと思いますよ。よくこんなしんどいことをやってくれるなと思います。割と、リング上の見た目よりも、裏でやっていることはかなり地味ですね(笑)。
僕は自分のところの試合も観ないんですよ。例えば、50人、100人の前で試合をして会場が沸いているとしても、それと一緒になって喜んでちゃダメなんです。やっぱり集客が頭にあるので、わが子かわいさで喜んでいたら、客観的に見るのを忘れてしまう。だから会場では、いつも控室で選手と話しているだけですよ(笑)。