ドルトムントで出場機会が減った香川 トゥヘルが求める一段上のクオリティー

中野吉之伴

香川の課題はボールへの積極的なアプローチ

守備では適切なポジショニングから積極的なボールへのアプローチが必須事項。この点で香川はライバルから後れを取ってしまう 【写真:ロイター/アフロ】

 ここのところ香川真司が出場機会を失っている。だが、「前半戦で香川はあれほど活躍したのに」という過去の結果ではなく、今現在、誰にも負けないプレーができるんだということを常に証明していかなければならないのだ。苦しい思いをしているのは香川だけではない。レバークーゼンから移籍してきたゴンザロ・カストロも何度もそれで辛酸をなめた。キャプテンのマッツ・フンメルスも、大黒柱のイルカイ・ギュンドアンでもスタメンから外されたことはあった。

 だがそれは同時に、練習での取り組み・心構えが監督の求めるレベルに達すれば、誰にでも出場のチャンスは訪れることも意味している。カストロもそうして再び出場機会を得たし、放出候補とされていたモリッツ・ライトナーも戦力として数えられるようになった。あるいは、若手のフェリックス・パスラックやクリスチャン・プリシッチがデビューを果たしたのも決してご褒美などではなく、「育成のための出場機会」という誤った解釈でもない。選手に戦力になるだけの力がなければ戦う場を得ることなどできないのだ。

 ではトゥヘルが中盤の選手に求めているプレーとは何だろうか。守備においては適切なポジショニングから積極的なボールへのアプローチが必須事項。相手のプレー選択肢を狭め、ボールを奪い取る状況を作り出すためのプレッシャーが相手にかかっていなければならない。だが、そのためには相手に「ボールを失うかもしれない」「どこに出せばいいか分からない」という心的な負担をかけなければならず、いるべき場所にただいても、相手に余裕を持たれたらプレッシャーにはならない。

 この点で、香川はほかのライバル選手と比べて後れを取ってしまう。自分たちが押し込める相手なら問題にならないが、ピッチにいる全選手が驚異的な個の力を誇るバイエルンのようなチームを相手にすると、そこが弱点になりかねない。

試される選手としての成熟さ

トゥヘルに要求されるハイクオリティーなプレーができれば、香川にとっても飛躍的な成長につながる 【写真:ロイター/アフロ】

 一方の攻撃では、香川のプレーするトップ下、あるいはインサイドハーフというポジションには、前線にボールを運びながら、刹那の時間の中から最適な選択肢を見つけ出し、正確なプレーでリズムを作り出すことが必要とされる。相手チームも研究を重ねてきており、中央にはなかなかスペースを与えないように細心の注意で守っている。そんな相手に対しても中盤で優位な状況を作り出し、防ごうとしても止められないプレーで状況を打開していかなければならないのだ。言葉にする以上に簡単なプレーでないことは確かだ。

 だが、ピッチに出ているほかのライバル選手はそうした難しい状況でも独力、あるいはコンビネーションプレーで決定的なシーンを演出しているし、香川にしても前半戦は攻撃の核として機能していたのだ。流れの中からボールを引き出し、一瞬のリズムチェンジから決定機を生み出す能力は、ドルトムントの中でも秀逸。トゥヘルもそんな香川を評価しているはずだし、だからこそ要求レベルも厳しくなる。

 今季リーグは残り8試合。ドイツカップ、ヨーロッパリーグでも勝ち残っている。間違いなくヨーロッパでも有数のレベルになりつつあるドルトムント。レギュラー選手には当然、それ相応のハイクオリティーが要求されるものだ。選手としての成熟さが試されている。だからこそ、この壁を乗り越えることができれば、さらなる成長、それも飛躍的な成長につながるはずだ。力が必要とされる舞台は必ずやってくる。香川の活躍がドルトムントファンを歓喜に導く瞬間を期待したい。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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