豪州の“対策”に力を封じられたなでしこ 痛い初戦の勝ち点0、中1日で韓国戦へ

江橋よしのり

実力は、出せて初めて意味がある

なでしこジャパンはリオ五輪アジア最終予選の初戦でオーストラリアに敗れ、黒星スタートとなった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 実力は、出せて初めて意味がある。たとえどれだけ素晴らしいものを持っていても、出す機会を封じられたら、よい結果を得られない。

 なでしこジャパンは2月29日、リオデジャネイロ五輪アジア最終予選の初戦でオーストラリアと対戦し、1−3で敗れた。オーストラリアに2点を先行された後、前半終了間際に1点を返したものの、終盤に絶望的な3点目をたたき込まれて勝負は決した。日本がオーストラリアに敗れるのは、2010年5月に行われた女子アジアカップ兼11年ワールドカップ(W杯)予選(0−1)以来、5年9カ月ぶりのことだ。

 冒頭の言葉は、実を言うとなでしこジャパンにもオーストラリアにも当てはまる。昨年のW杯では、「オーストラリアのパワーとスピードを封じる策」がはまって、日本が1−0で勝利した。あのときのなでしこは、自陣で左右に大きくボールを動かしながら相手FWにボールを追わせた。

 オーストラリアにしてみれば、「若さと勢いで、王者日本に一泡吹かせよう」と意気込んで臨んだはずだが、いつまでもボールに触れないまま体力を消耗させられ、いざ攻撃に転じた時には体が思うように動かなくなっていた。現地カナダのメディアが評した通り、日本の「相手の生命力を吸い取る」戦い方によって、オーストラリアは実力を発揮できないまま敗れ去った。

「日本戦にフォーカスしてトレーニングを積んできた」

オーストラリアは試合開始直後からテンポの早い攻撃を繰り返し、ボールを奪われてもすぐに奪い返してまた攻撃に転じた 【Getty Images】

 それから8か月。今度はオーストラリアが、「日本の対策を封じる対策」を練り上げて結果をつかみ取った。この日の試合終了後、オーストラリアのアレン・スタジッチ監督が記者会見場に姿を現した。気温35度の南半球から1週間前に来日した指揮官は、冷えきった体をコーヒーで温めながら笑顔で話し始める。

「日本がワールドクラスのチームであることは、これまで何度も対戦してきてよく分かっている。だからこれまで4週間、日本戦にフォーカスしてトレーニングを積んできた。今日は無駄な体力を使わずに済んだんだ」

 ではこの日、オーストラリアが取った「なでしこの実力を封じる策」とは、一体どんなものだったのだろうか。

 試合開始直後から、オーストラリアはテンポの早い攻撃を繰り返していた。パスを受けられる位置に必ず複数の選手がいて、小気味よくボールが動く。もちろんすべてのパスが成功するわけではないが、たとえ相手に渡ってしまっても、選手同士の距離が近いのですぐに奪い返してまた攻撃を転じることができる。

「(オーストラリアは)もっとミドルシュートを狙うとか、もっと早い段階でクロスを上げてくると想定していた」とは、GK山根恵里奈の試合後のコメントである。オーストラリアの攻撃は、ゴールに向かって急ぐのではなく、なでしこに守備の的を絞らせないこと、ボールを持たせないことを主眼に置いていたようだ。

 一方の日本はW杯の時と同様、自陣で左右にボールを動かして相手を翻弄(ほんろう)したかったが、オーストラリアはその対策も準備していた。オーストラリアは攻撃時には最前線に1人のFWという布陣だが、守備時には中盤の1人を上げ、岩清水梓と熊谷紗希のどちらもフリーにさせない形を作っていたのだ。さらに、1列前にいる宮間あやと阪口夢穂の中央MFには、間合いを詰めるタイミングをほんのちょっと遅くして、前を向く瞬間に体をぶつける狙いを持っていたようだ。

 再びスタジッチ監督の試合後のコメントを引けば、「しっかりとボールをキープできた。そして、いいポジションを取り続けることができた」という2つの要素によって、オーストラリアはなでしこの力を封じていた。

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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