高校サッカー選手権で見えた3つの傾向 戦国時代が終わり、幕を開けた新時代

小澤一郎

東福岡の優勝で幕を閉じた第94回全国高校サッカー選手権。今大会は3つの傾向が見られた 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 1月11日に幕を閉じた第94回全国高校サッカー選手権大会は、東福岡(福岡)が決勝で國學院久我山(東京A)を5−0という大差で下し、17年ぶり3度目の優勝を果たした。敵将の清水恭孝監督が「一言で言うと、東福岡が強かった。ベストゲームができたとしても、どうだったかなというくらい力の差があったと感じている」と述べた通り、東福岡は勢いをもって決勝にたどり着いた國學院久我山をあらゆる面で圧倒し、会心のゲーム内容で夏のインターハイに続く全国制覇を成し遂げた。

U−18プレミアリーグ創設の影響

 今大会を総括すると、3つの傾向が見えてくる。1つ目は、高校サッカーにおける「プレミア化」により“横綱”と呼べるチームが明確になっている点だ。2005年の第84回大会で野洲(滋賀)が優勝して以降、今大会の東福岡と11年大会の市立船橋(千葉)を除き11大会中9大会で初優勝校が生まれた。

 この約10年はある意味で高校サッカーの地域差や戦力格差が解消された「戦国時代」が続いていたのだが、11年度から東西10チームずつに分けたU−18プレミアリーグが創設されたことを分岐点として、東福岡を筆頭にプレミアの常連チームが高校サッカーの中で頭一つ抜け出す「横綱化」の現象が起きている。

 優勝した東福岡は15年度のプレミアWESTで2位になっており、4強の青森山田もEAST2位の成績を残した。こうした事実からも分かる通り、プレミアリーグで日常的にJリーグのユースチームとハイレベルな公式戦を戦い、その中で毎年残留、もしくは上位争いができている強豪校は、選手権のようなトーナメント方式の80分(準決勝からは90分)ゲームであっても浮足立つことなく、普段通りのハイレベルなサッカーできちんと勝ち上がる力強さを見せ始めている。東福岡の森重潤也監督も「プレミアでハイレベルな戦いをしている。簡単に勝てるリーグではないし、その中で本当に鍛えられている」と話す。

 また、國學院久我山の清水監督が準決勝後に「われわれの決勝進出よりも、星稜さんの4年連続ベスト4の方がすごい。本当にこれは強烈で、こんなことは絶対にできない」と語った通り、この記録はまさに偉業だ。裏を返せば、昨年度のファイナリストの星稜、前橋育英のように、毎年プリンスリーグで優勝とプレミアリーグ参入戦を狙えるような強豪校も“横綱”を狙える“大関”の番付にいると言える。

良いGKのいるチームが勝ち上がる

東福岡の脇野を筆頭に、ベスト4進出校にはハイレベルなGKがそろっていた 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 2つ目は、良いGKのいるチームが勝ち上がる傾向が見られた点だ。東福岡のU−18日本代表GK脇野敦至(3年)を筆頭に、國學院久我山の1年生GK平田周、青森山田のU−18日本代表GK廣末陸(2年)、前年度もゴールマウスを守っていた星稜のGK坂口璃久(3年)と、今大会のベスト4進出校には全てハイレベルなGKがそろっていた。

 特に、年代別代表に入る脇野、廣末は大会中に高い評価を受けた足元の技術、フィード能力以上に、「失点しない」ためのポジショニング、キャッチングという基礎レベルの高さが際立っていた。

 GKというポジションは専門性が高く、通常のサッカー指導者ではきめ細かな指導が難しい。今や全国大会に出場する出場校は当たり前のように「トレーナー」がベンチ入りしているように、強豪校ともなれば専門指導のできる「GKコーチ」もいる時代に突入している。

 こうした傾向を好機として、GKの育成が高校サッカーにおいて日常的なテーマとなり、全国レベルの強豪校のみならず、全国を目指す標準レベルの高校においても専門的なGK指導が受けられる環境が整うことを望みたい。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て渡西。2010年までバレンシアで5年間活動。2024年6月からは家族で再びスペインに移住。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在は、U-NEXTの専属解説者としてLALIGAの解説や関連番組の出演などもこなす。著書19冊(訳構成書含む)、新刊に「スペインで『上手い選手』が育つワケ」(ぱる出版)、「サッカー戦術の教科書」(マイナビ出版)。二児の父・パパコーチ。YouTube「Periodista」チャンネル。(株)アレナトーレ所属。

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