高校サッカー選手権で見えた3つの傾向 戦国時代が終わり、幕を開けた新時代
オリジナリティーを打ち出すチームの躍進
今大会は國學院久我山のようなオリジナリティーを打ち出すチームの躍進が目立った 【写真:田村翔/アフロスポーツ】
準決勝で國學院久我山に敗れた青森山田の黒田剛監督も「私は北海道出身でもあり、雪国で雪のない地域にどうやって勝つかというところから、指導の人生がスタートしました」と前置きし、雪国というハンディキャップをアドバンテージに変える逆転の発想について次のように説明した。
「雪をうまく利用し、いろいろな意味で辛抱、我慢を続けながら、雪解けを首を長くして待ち続ける。それまでにやることをきっちりとやりきって、メンタル、体力をしっかりと鍛えていくことが指導のベースにあります。雪はお願いしてなくなるような環境ではないので、雪としっかり付き合いながら、雪解けの3月、4月から一気にチーム作りをしています」
今大会の注目選手の1人で、1月からはJ1の湘南ベルマーレでプレーするMF神谷優太(3年)もあえて厳しい環境を求めて、高校2年次に青森山田へ転校した。今や多くの選手が情報化社会の波をうまく生かして、高校入学前にきちんと学校の文化やプレー環境をリサーチしている。だからこそ、國學院久我山の清水監督は決勝進出後にあらためて高校選びについての話にも言及している。
「自分が行きたいチームのことはよく見た方がいい。名前だけで決めないでほしい。今回、久我山が決勝まで行ったから、久我山が強いから行きたいではなく、自分がそこに行って何を求めるのか、自分がどこを目指したいのかを考えて決めてほしい」
日本一を獲った東福岡の280人という日本一の部員数が今大会話題となったが、階層化されたリーグ戦が整備され、複数チームのリーグ戦(公式戦)登録が可能となった現在、一昔前まで叫ばれていたような「補欠問題」はかなりの部分で解消されつつある。東福岡が十数人のスタッフをそろえて、複数チーム編成できめ細かな一貫指導を行なっているように、サッカー部単体ではなく学校としての文化や環境を明確に打ち出したスタイルを築くことが、勝利の可能性を高めることにつながってきた印象も受ける。
Jユースと高校サッカーの優劣を語る時代は終わり
選手の質ではJユースに劣るものの、決勝には多くの観客が集まり、高校サッカーの人気の高さを示した 【写真:田村翔/アフロスポーツ】
しかし、決勝戦に5万4000人を超える観客が集まり、大差が付いたとはいえ、東福岡と國學院久我山の両チームがハイレベルでエキサイティングなゲームを披露したのも事実。もはやJユースと高校サッカーの優劣を語る時代は終わりを告げ、階層化された環境下での「高校サッカー新時代」はすでに幕を開けている。
今大会の選手たちは20年の東京五輪世代でもあり、間違いなく今大会の経験も踏まえて、五輪のピッチに立つ選手が生まれてくるはずだ。ただし、國學院久我山のMF名倉巧(2年)が「東京五輪は目指している大会ですけれど、サッカー選手にとっては通過点の一つ」と話すように、地元開催の五輪に盛り上がる大人よりも、五輪世代の子供たちの方が冷静に「サッカー選手にとっての五輪」を受け止めている。
今年はリオデジャネイロ五輪が開催される。そして、まさに1月12日、カタールでリオ五輪の切符を懸けたAFC U−23選手権が開幕する。4年後を待ちながらも、まずは目の前のU−23日本代表の躍進に期待しようではないか。