1部昇格を目指す金満ライプツィヒの野望 ボーフムに見る“伝統的”クラブのあり方
敵地で嫌われる成金クラブ
ドイツ2部で首位を走るライプツィヒ。豊富な資金力を誇る新興クラブに、アウェーでは厳しい目が向けられる 【Bongarts/Getty Images】
ブンデスリーガ2部に所属するラーゼンボールシュポルト(RB)・ライプツィヒの選手は、面の皮が厚くなければ務まらない。14日ごとにやってくるアウェーのアリーナでの対戦で、いつも同じ光景が繰り広げられる。選手と監督だけではない。クラブ全体、さらにはファンが、ひどく反発的なリアクションを受けるのだ。アウエやカールスルーエといった街では、時に行き過ぎたものも見受けられる。
10月18日に行われ、上位同士の対戦となったVfLボーフムでの一戦(1−0)では、当然ながら東スタンドとAブロックの間にあった横断幕には、こう記されていた。「伝統=1848−RBullshit=2009」「後に残るのは金だけ」など……。
2014−15シーズンの初めにルール地方のボーフムからライプツィヒへと移籍していたDFルーカス・クロスターマンは、「裏切り者のクロスターマン」とののしられた。数えきれないほどの歌に歌いあげられるほどに、ボーフムのファンは自分たちの歴史とクラブに強い誇りを持っている。ライプツィヒのような成金クラブは、「現代サッカー」が生み出した“敵対すべきもの”とみなしているのだ。
低迷が続くも、変わらないサポーターの愛情
近年、低迷が続く“伝統的”クラブのボーフムだが、サポーターからの愛は変わらない 【Bongarts/Getty Images】
ボーフムとRBライプツィヒこそ、その説明の好例だろう。その名に1848と冠するVfLボーフムだが、実は最終的に設立されたのは、数クラブが合併した1936年のことになる。とはいえ、以降「運動協会」とその後継者たちは、ボーフムのガストロパー通りでプレーを続けてきた。100年にわたり、これは揺るぎない事実であった。ルールシュタディオン(ボーフムのホーム)はドイツサッカー界の「宝石箱」と称えられ、対戦相手としてやって来たサポーターにも人気がある。
地理的には、“肩身”が狭い。ボルシア・ドルトムントとシャルケ04というビッグクラブのホームに挟まれ、ボーフムはもう何代にもわたって、いつかビッグになる日を夢見てきた。ボーフムはブンデスリーガでの34年間、「Unabsteigbar(降格知らず)」と呼ばれてきた。数えきれないほど降格の危機にあらがい、全身全霊を捧げることによって、2部リーグへの降格を避けてきたのだ。そう、93年までは。
以降、青と白を象徴とするクラブは、2つの世界の間のさまよい人となってきた。95年に1部に昇格したと思ったら、翌年には2部に落ちていた。99年にも落ちて、01年にも落ちた。最後に落ちたのは09−10シーズン。その後、2部に落ちるチャンスすらない。
2部にいるにはもったいないが、1部リーグに置くほどでもない。この5年、そんな宙ぶらりんなクラブは、UEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)制覇も視野に入れた97年や04年のような良い時代を引き寄せようと努力してきた。
だが、それも遠い昔の栄光だ。ボーフムの毎日は、灰色に塗りつぶされている。「灰色のネズミ(ボーフムの愛称)」とは、うまいニックネームをつけたものだ。それでも忠実なるファンは、腕にVfLのマークが付いたユニホームを着て、こう叫ぶ。
「タイトルもトロフィーもない。それが続くかもしれないけれど、そういうものなんだ。いつもそうだったさ、VfLボーフムは!」
09年に設立された新興クラブの目指すもの
5年のうちに、RBライプツィヒはプロサッカー界で名前を知らしめた。今シーズン開幕前にはブレーメンからU−21ドイツ代表のデイヴィー・ゼルケを獲得し、新聞の見出しをにぎわせた。このリッチなクラブはこの夏、他の2部リーグチームの全投資額に相当する、1800万ユーロ(約23億5000万円)を使った。この投資の見返りとして、クラブは今季、ドイツのエリートが集う1部リーグへステップアップすることを切望している。非難の声を受けながら、結局は抗議に対して砂を投げ返している。
「現代サッカーってなんだ?」
その議論にファンは思いのたけをぶつける。認めるべきか? 否定すべきか? その答えを出すために、ファンが必要とするのは「敵」の具体的なイメージだ。だがその言葉の応酬は、往々にして表層に爪を立てるに過ぎない。