宮市の復帰を待つザンクト・パウリの人々 新たなスターに寄せられる大きな期待
他のクラブとは一味違う存在
ドイツ2部のザンクト・パウリに加入した宮市(右)。移籍直後に負傷したものの、クラブからは大きな期待が寄せられている 【Bongarts/Getty Images】
ザンクト・パウリに来た新戦力は、サッカーの「別世界に足を踏み入れたかのようだ」と表現する。このクラブでは、サッカーと政治が鍋の中で融解する。このコミュニティーは、他のクラブとは一味違う存在であることを隠しはしない。左翼の彼らが説くイデオロギーは、こう続く。寛容、国際主義、リスペクト。そして、人種差別など、あらゆる差別に反対する。だからこそ、ドイツのサッカーファンは、最も大事な自分の街のクラブに続けて、2番目に好きなクラブとしてザンクト・パウリの名を挙げるのだ。この小さなクラブのファンは、国中に1100万人いると言われている。
そこにまた、一人の仲間が加わった。まずはオランダで力を磨き、ボルトン、ウィガンと渡り歩き、最終的にロンドンのクラブ(アーセナル)を後にした男。宮市亮である。日いずる国からやって来た青年は、ドーバー海峡を渡り切ることなく、大陸にとどまりハンブルクを新たなホームに定めた。
このハンザ都市は、彼がこれまで住んできたオランダのエンスヘーデやロッテルダムとは様子の異なるコミュニティーだ。「新しくやってきた選手たちは、まずクラブの施設と地元のエリアを見学する。それからミラントーア・シュタディオンで、『ジョリー・ロジャーズ』(ドクロをあしらった海賊が好んで用いる旗)を振りかざす熱狂的なサポーターに迎えられる」と『taz』紙は記す。前監督のホルガー・スタニスラフスキは「来てみてようやく、この特別なクラブのことを完璧に理解することができる」と話していた。宮市には、たっぷりと時間がある。6〜8カ月をかけて、ハンブルクの街と、その人々を知っていけばいい。
加入後すぐに意気投合した選手とは?
宮市はゾビーヒ(白)とすぐに意気投合し、チームにもなじんでいる 【Bongarts/Getty Images】
加入数日で、宮市はチームメートたちの名前を覚えたという。『ハンブルガー・モルゲンポスト』のシュテファン・クラウセ記者は、「特にDFラッセ・ゾビーヒと仲が良いようだ」と話す。リョウはとても礼儀正しいナイスガイで、すぐに新しいチームになじんでいたと、クラウセ記者は続けた。
ゾビーヒが、宮市の助けとなっていたようだ。実際、このDFは「リョウは良いヤツだ」と語っている。ゾビーヒ自身が、宮市を気に入っているのだ。「僕らは英語で会話するし、新居を探す手伝いをしたよ。一緒に時間を過ごしていて楽しい。個性の強いヤツだし、プロとしての姿勢もしっかりしている。結婚したばかりの奥さんも、近々ハンブルクに来ると聞いている。奥さんはもう、ドイツ語を勉強しているらしいよ」。ゾビーヒとは、家族ぐるみの付き合いになるかもしれない。「僕らは気が合うんだ。例えば、僕らは豪華な車なんていらない。そういうものには興味がないんだよ」。そういう感性は、この地域の人々にも好まれるものだ。サッカー選手は大きな車が好きなのかもしれないが、海賊には似つかわしくないではないか。