なぜFC今治は昇格の夢を絶たれたのか? 地域決勝1次ラウンドでの誤算を検証する

宇都宮徹壱

たった1ゴールに涙をのんだ今治

3点差以上での勝利を求められていた福井戦。岡本の先制ゴールで勢いづく今治だったが…… 【宇都宮徹壱】

 かくして2試合を終えた時点で、1位福井(勝ち点6)、2位和歌山(同3)、3位今治(同3)、4位阪南大ク(同0)となった(和歌山と今治は得失点差も同じだが、直接対決の勝者が上位となっている)。ここで圧倒的な強さを見せているのが、4大会連続で出場している福井。和歌山との初戦ではオウンゴールで得た1点をしぶとく守り切ると、続く阪南大クとの第2戦では4ゴールを挙げて格の違いを見せつけた。福井を率いる佐野達監督に、今治との第3戦について質問すると「(全社で)1回やっているし、分析はしているんですけれど、われわれがいかに戦うか、いかに気持ちを出すかですよね。相手のことはあまり気にしていないです」と自信をのぞかせていた。

 自力で1位突破するためには、福井に3点差以上で勝利しなければならない今治。10時45分キックオフの第3戦では、山田と市川という元日本代表コンビに加えて、シャドーからの飛び出しで何度もチャンスを作っていたダヴィッド・コロミナス・サウラをスタメンに戻すなどして、ベストメンバーで臨む。試合は、予想以上の激しい点の奪い合いとなった。前半16分、市川のクロスに岡本剛史が頭で合わせて今治が先制。22分、FKのチャンスから山田雄太が右足で押し込んで福井が同点。後半17分、CKから井筒庄吾がヘディングで決めて福井が逆転。しかし28分、乙部のラストパスを受けた途中出場の下村和真がペナルティーエリア手前から右足で決めて、試合を振り出しに戻す。

 その後も激しい攻防が続くも、両者ともに決め手を欠いて2−2の引き分け。しかし地域決勝では、引き分けの場合は延長戦なしのPK戦が行われ、勝者に勝ち点2が、敗者に1が与えられるというレギュレーションがある。1位抜けの夢を絶たれた今治は、ここから驚異的な集中力を発揮した。サドンデスで7人全員がPKを成功させ、福井の7人目をGK福山直弥が見事にセーブ。しかし、勝ち点2を手にした選手たちの表情に笑みはなかった。ワイルドカードのボーダーラインは、勝ち点6と思われていたからだ。

 予想通り午後の試合でFC刈谷が2勝目を収め、勝ち点6でワイルドカードの権利を得ることとなった。ただし、刈谷の得失点差は−2。この福井戦、あるいは前日の和歌山戦で、あと1ゴールさえ決めていたら、今治の今季の冒険はまだ続いていた可能性もある。1年間積み重ねてきたもののすべてが、たった1ゴールによって左右されてしまう怖さと残酷さ。これこそが、地域決勝という大会の本質であると言えよう。

なぜ木村監督は“禁じ手”を使ったのか?

木村監督(左)。第2戦のターンオーバーとシステム変更は、自身も「失敗」と認めている 【宇都宮徹壱】

 以上を踏まえて、1次ラウンド3試合を通しての今治の敗因を考えてみたい。個人的には、2戦目の和歌山戦への臨み方に最大の問題があったと考えている。地域決勝という大会を長年見続けている立場から指摘するなら、初戦で勝ったチームを大幅に替えるというのは禁じ手以外の何ものでもない。その上システムまで変えてしまうというのは、この大会を舐めてかかっているようにさえ感じられてならなかった。

 2戦目でスタメンを大きく替えるというのは、地域決勝特有の初戦のプレッシャーを二度もチームに課すリスクをはらんでいた。ターンオーバー制を敷いて、選手の消耗を軽減したいという気持ちは理解できる。だが、こと地域決勝に関していえば、連戦による消耗よりも、大会の重圧から選手を開放することを指揮官は第一に心掛けるべきであった。その意味で今治は、この大会に向けた経験値があまりにも不足していた。

 一方で解せないこともある。木村監督は、過去2大会(12年と13年)、今治を率いて地域決勝を戦った経験を持っており、この大会の難しさや怖さは誰よりも知っていたはず。加えて今治は、決して選手層が厚いというわけでもなかった(むしろ長尾を欠いて厳しい台所事情であった)。にもかかわらず、なぜにターンオーバーというリスクのある判断を下したのだろうか。もしかしたら監督の意図とは別の意向が働いていたのではないか、といううがった見方もしたくなるが、現時点ではこれ以上の言及は控えるべきであろう。

 いずれにせよ今大会の今治は、1次ラウンドをかろうじて突破できるだけの力を持っていたにもかかわらず、地域決勝の難しさを過小評価するような判断ミスによって、その可能性を絶たれてしまった。そのことが何よりも残念でならない。レベルは決して高くないけれど、ワールドカップと同じくらい厳しい大会。それが地域決勝である。その厳しさを痛いほど体感できたことが、今大会で今治が得た一番の収穫ではなかったか。

 試合後、岡田オーナーが先頭に立って、選手やスタッフとともに深々と頭を下げる姿が印象的であった。その姿は実に堂々としていたが、悔しさを必死で胸にしまい込もうとする表情を私は見逃さなかった。地域リーグで足踏みするのは、オーナーにとってもクラブにとって、不本意以外の何ものでもないだろう。しかしながら、幾多のクラブがその悔しさと苦しみを糧に、地域決勝の難関を突破してJクラブとなっている。また来年、一皮むけた今治が、この舞台に戻ってくることを切に期待したい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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