石井智宏が語るNEVER王座と天龍源一郎「自分が満足する試合を追求したい」
天龍引退興行に「巡り合わせを感じる」
WAR時代に付き人をしていた天龍源一郎 【横田修平】
オレは天龍さんの引退試合は、天龍さんと長州さんの引退試合だと思っていたから。昔から天龍さんは昔から「長州さんとやって辞めたい」って言ってたから、そうだと思ってたんだよね。オカダ(・カズチカ)とやるっていうのも、奇想天外というか、天龍さんらしいよね。そこで長州さんと組むのも、何か変な感じというか、巡り合わせを感じますけどね。
――天龍さんの引退興行のカードに選ばれたうれしさというのはありますか?
そうですね。天龍さんの引退試合に『石井智宏』という名前が出たことはうれしいことだよね。
――石井選手は1996年にWARに入門して、天龍さんの付き人を経験しました。
周りの人からしたら「昔から比べたら丸くなった」って言ってたけど、まぁ毎日怒られてたよね。オレは付き人っていうのは誰も経験しないで、いきなり天龍さんだったから。その前は安良岡(裕二)さんだったんだけど、付き人の安良岡さんから「こういうときはこうやれ」「控え室ではこう並べておけ」って、いろいろ聞いたんだけど、やっぱりその場に行くとテンパッてできない……。毎日めちゃくちゃ怒られたもん。
――それは付き人というものが初めての経験だったからですか? それとも天龍さんのオーラ?
どうだろうね。両方あるんじゃない。天龍さんに「一番使えない付き人」って言われたからね(笑)。
――怒られたエピソードで印象に残るのは?
もういろいろありすぎて……。毎日怒られてたから。そこで付き人のイロハをすべて教わったから。その後、長州さんについたときは完璧にこなしてたから(笑)。でも、逆にこと細かくやるようになって、長州さんはそういうの嫌いだから「いいよ、自分でやるから」って逆に怒られていたよね(笑)。
――お酒のイメージもありますが?
最初オレは22歳ぐらいまで酒飲めなかったから。オレはパスさせてもらってたんだけど、周りの先輩が「何であいつだけ飲んでねーんだよ」ってなって、その周りの先輩から飲まされるようになって。最初は全部吐いていたからね。
――いろいろなことをWARで覚えていったんですね。
でも18歳で社会知らないで入ってきた人間にとっては、いろいろな団体を見てきたけど、WARって礼儀作法は別格だったよね。別格なぐらい厳しかった。そういうところでやってきたというのは、社会人としてプロレスと関係ない人と接してもそれはすごい役立っているよね。
――プロレスで学んだことは?
これは最近くさるほどインタビューでも答えているけど、やっぱり相手の技をすかすな、全部受けろっていうのは天龍さんの教えだよね。「ビビッてすかすんじゃねー。受け止めろ」って。これはデビューしてからずっと言われてたよ。
――石井選手は体も小さいからテクニシャンスタイルというのもあると思うんですけど、デビューからそういうスタイルを目指していたんですね?
オレはそれがプロレスだと思っているから。相手の技を受け止めるプロレスが格闘技として一番強いと思ってやってきたから。オレはそういうスタイルでやってきたから。
やっぱり、そりゃー周りの先輩からは「小さいんだから飛んだり、跳ねたり、すかせよ」とかいろいろ言われてきたよ。それはWJのときまでずっと言われてたよね。「何でお前みたいなやつが小さいやつがガンガン受けるプロレスしてるんだよ」って言われてたよね。
自分がやってきた試合を見せるだけ
そうそう。もともとプロレスをやりたいと思ったのは、最高の格闘技だと思っていたから。その中で最強だと思っていたのが天龍さんだからね。
――恩師である2人を前にして11月15日はどんな試合を見せたい?
いや、本当にいつも通り。天龍さんの引退試合だからとか、長州さんと組むからとか、そういう気持ちで試合はしない。新日本でやるいつもどおりの試合だよね。後楽園だろうが、地方だろうが、それは一緒だよ。オレがやってきたことを見せるだけだよ。
――天龍さんはその引退試合に、CHAOSの盟友であるオカダ選手を選ばれました。
さすがだなって思ったよ。ファンが聞いて度肝を抜くカードを今までやってきてるからね、天龍さんは。当時は考えられなかった電流爆破をやったり、Uインターとやったり、ミックスドマッチをやったり。奇想天外のカードで周りを驚かせてきたけど、やっぱりさすがだなって。オレ自身も驚いたし、ファンももっと驚いたんじゃないの?
――どんな試合展開を想像されますか?
想像できないね、全然。どうなんだろうね。これはオレがどうこう言う問題じゃないと思っているよ。
――天龍vs.オカダは“昭和のプロレス”というのがひとつのキーワードになっていますが、石井さんも“昭和のプロレスの後継者”と言われることがよくあります。
オレはそれよく分からないんだよね。オレ、平成デビューだからね(笑)。昭和のプロレスって言われてもよく分からないよね。ただ、オレがやっているのは、オレが憧れていたというか、オレがすげーなって思っていたプロレスをやっているというだけで。当時のね。それが昭和だとかいろいろ言われるだけで、昭和のプロレスをやっているつもりはないんだけどね。
――これからの石井選手はどんな試合をしていきたいですか?
オレが自分自身で満足する試合を追い求めていくだけだよね。
――最近そういう試合はない?
オレそういう試合がないんだよね……プロに入ってからないかもしれない……。完璧で「うわー、すげー良かった」と思える試合がないんだよね。よく生涯のベストバウトとか聞かれるけど、ないんだよね。だからこれは多分引退してから決めるんだろうな。引退して「あーあれが良かったな」と思えるんじゃないかな。今はとにかく反省の日々だよね。
――引退するまでずっと理想の試合を追い求めていくんですね。
だからベストバウトとかっていうのは引退したときに答えられるんだろうな。
――あらためて最後に石井選手にとって理想のプロレスを教えてください。
相手のすべてを受け止めて、最後は勝つ。究極の目標だね。
(取材・文:竹内英之/スポーツナビ)