ナビスコ決勝、ワンサイドゲームの要因 小笠原が鹿島に行き渡らせた勝者の精神
両者に見えたメンタルコンディションの差
ナビスコカップ決勝は鹿島がG大阪に3−0で快勝し、17冠目のタイトルを獲得した 【写真:アフロスポーツ】
ワンサイドゲームになった要因は何だったのか。9月、10月とほぼ休みなく戦ってきたG大阪の過密日程による影響(疲労)を指摘する声もある。しかし、G大阪のGK東口順昭の見方は違った。「前半、鹿島の圧力に押されて、疲れがあるように見えただけ。直近の試合から1週間も空いていた。過密日程は関係ない」と。守護神によれば、フィジカル(身)よりもむしろ、メンタル(心)のコンディションに差があった、という。
「ざっくり言えば『勝ちたい』という気持ちの面で相手が上だった」
そう語ったのはG大阪の長谷川健太監督だ。また、指揮官はこうも話している。「選手たちに『勝てるだろう』という慢心があったかもしれない」と。決戦を迎えるまでの鹿島との公式戦は4連勝中だった。心のどこかに隙が生じたのか。真偽のほどはともかく、鹿島の気迫がG大阪を上回っていたのは確かだろう。その象徴が、圧巻とも言うべき「球際の強さ」だった。
敵陣からガンガン圧力をかける鹿島のハイプレス(戦術)が十全に機能したのも、そのためだ。これに攻守の切り替えの速さと、相手に寄せる出足の鋭さが重なって、時に転がり、時に宙を舞うボールが、ことごとく臙脂(えんじ)のユニフォームに吸い込まれていった。事実、宇佐美は「想像していた以上にプレッシャーがすごかった」と、振り返っている。
G大阪・遠藤の珍しいエラーの連続
鹿島の苛烈なプレスに、遠藤は珍しくエラーを連発した 【写真:アフロスポーツ】
パトリックを狙ったパスそのものが、すでに「死んでいた」わけだ。送り手が苛烈なプレスに浴びて、苦し紛れのパスが頻発している。事実、反撃の始点となる遠藤保仁のパスワークに何度もバグが生じていた。41分の場面が象徴的だろうか。こぼれ球を拾い、前線で待つ宇佐美へ送ったパスがファン・ソッコに拾われると、その数十秒後には遠藤にボールを預けて前へ出た今野泰幸へのリターンパスを、プレスバックした鹿島の遠藤康に回収されてしまう。
名手にしては極めて珍しいエラーの連続。遠藤がパスを送る寸前に圧力をかけていた柴崎岳の、小笠原満男のファーストディフェンスが「最速奪取」の伏線になっていた。イレブンが鎖にようにつながり、狙った獲物を仕留めるプレッシング戦術の教本だろう。そして、この“ハンティング・ワールド”の先導者と言うべき存在が、小笠原である。
開始5分のワンプレーが暗示的だった。G大阪の米倉恒貴がタッチライン際で遠藤に視線を配った瞬間、企図を察知した小笠原は倉田秋のマークを捨てて遠藤に襲い掛かり、ボールを絡め取った。この日の鹿島が何をすべきか――。「苛烈なプレス」と「遠藤狩り」という二重のメッセージを込めたキャプテンのボールハントは、鹿島の攻勢を加速させるスイッチだった。