晩節を汚し続けるロナウジーニョの現在 再び超絶技巧と笑顔を見ることができるか

沢田啓明

坂道を転がり落ちるようなキャリア

移籍するたびに、在籍期間とプレー内容は低下の一途をたどっている 【写真:ロイター/アフロ】

 キャリアのピークをとうに過ぎたとはいえ、彼ほど華がある選手は世界でもまれだ。ここでも最初はサポーターの期待を集め、本人も「ブラジル全国リーグで優勝したい」と抱負を語った。

 そして、8月1日、古巣グレミオとの試合に初出場。得点のお膳立てをしてチームの勝利(1−0)に貢献し、「ひょっとしたら、今度こそは」と思わせた。ところが、その後、コンディションが一向に上がらず、先発しても後半の途中でベンチへ下げられることが増える。そして、8月30日のアトレチコ・ミネイロ戦(1−2)でミスを連発し、サポーターからブーイングを受けた。

 9月に入ってからは先発を外れ、悲しそうな顔でベンチに座るのが日常となった。そして、8試合ぶりに先発した前述のゴイアス戦が最後の試合となったのである。

 本人は退団を申し入れた理由を明らかにしていないが、このような屈辱的な状況に耐えられなかったのではないか。ミランを退団後、フラメンゴで1年4カ月余り、アトレチコ・ミネイロで2年2カ月プレーしたが、その後はケレタロが9カ月半、フルミネンセが2カ月半と在籍期間がどんどん短くなっている。プレー内容も低下の一途。まさに、坂道を転がり落ちるようだ。

オファーは多数も、本人に覚悟はあるのか?

現役続行に意欲を見せるロナウジーニョ。再び笑顔を見ることができるか? 【写真:Action Images/アフロ】

 もういつ引退してもまったくおかしくない。しかし、本人は「毎日、世界各国のクラブからオファーが舞い込むんだ。もう少し考えてから、次のクラブを決める」と語る。確かに、ブラジル国内のクラブはもとより、米国、UAE、スイス、マレーシアなどからオファーがあるようだ。とはいえ、世界中どこでもシーズンたけなわというのに、急ぐ様子はない。

 今後、ロナウジーニョは何を励みにプレーするのか。「まだ自分を欲しがるクラブがある」というだけでは、彼ほどの選手にとって不十分だろう。「フルミネンセをやめる際、本人は現役引退を望んだが、兄アシスら周囲が説得して翻意させた」といううわさがあるが、それが真実だったとしてもおかしくない。

 すでに年齢は35歳7カ月だが、身体はどこも悪くない。最低限の節制をして、練習を積んで体調を整えれば、もうしばらくはプレーできるはず。しかし、本人にその覚悟があるのかどうか。

 スーパースターがキャリア晩年を過ごすのに最もふさわしい場所は、出身クラブであるはずだ。しかし、ロナウジーニョには自分を育ててくれたグレミオへ戻れない事情がある。まだ20歳だった00年末、グレミオとの契約延長交渉を引き延ばしながら、秘密裏にパリ・サンジェルマンと仮契約を結んでいた。これがクラブ関係者とサポーターを激怒させ、以後、クラブを“出入り禁止”となっているからだ。

 これは、彼にとってもグレミオにとっても極めて不幸な状況だ。個人的には、両者が関係を修復してもう一度グレミオでプレーするのがベストと考えているが、その可能性は極めて低いようだ。

 もう一度、あの超絶テクニックを見せてほしい――。そう願う一方で、あれだけの実績を持つ大物にふさわしい有終の美を飾ってほしいとも思う。

 ただ、彼の兄で代理人を務めるアシスは、利に聡(さと)い半面、享楽的な弟を叱咤(しった)激励して正しい方向へ導くような人物ではない。その一方で、一族郎党が経済的にロナウジーニョに依存しているため、彼を欲しがるクラブがある限り、ボロボロになるまでプレーさせるつもりなのではないか。

 ロナウジーニョの全盛時を知るファンの多くは、「これ以上、醜態をさらしてほしくない」と考えているはず。そのことを、本人とアシスはどこまで理解しているのだろうか。

2/2ページ

著者プロフィール

1955年山口県生まれ。上智大学外国語学部仏語学科卒。3年間の会社勤めの後、サハラ砂漠の天然ガス・パイプライン敷設現場で仏語通訳に従事。その資金で1986年W杯メキシコ大会を現地観戦し、人生観が変わる。「日々、フットボールを呼吸し、咀嚼したい」と考え、同年末、ブラジル・サンパウロへ。フットボール・ジャーナリストとして日本の専門誌、新聞などへ寄稿。著書に「マラカナンの悲劇」(新潮社)、「情熱のブラジルサッカー」(平凡社新書)などがある。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント