世界に強さを見せつけたエディージャパン 強豪サモアに「想定通り」の快勝

斉藤健仁

SH田中の揺さぶりでサモアDFは前に出られず

突破するNo.8ホラニ(中央)。SH田中(右)のゲームコントロールも光った 【Photo by Yuka SHIGA】

 そして前半ロスタイム、素晴らしい攻撃からWTB山田章仁がトライを挙げた。「SHが戦術的に良いプレーをした」とジョーンズHCが評した通り、SH田中史朗がボールを早く出したり遅く出したりし、さらに戻りの遅い大型WTBアレサナ・トゥイランギ(185センチ、121キロ)の裏へキックをするなど試合をコントロール。相手のディフェンスは前に出ることができなくなっていた。さらに、反則を恐れ、武器であるはずの接点でも日本代表プレッシャーをかけることができなくなっていた。

 14次攻撃の末に生まれたこのトライは「相手(A・トゥイランギ)が上に(タックルに)来るのがわかったので回転した」という山田の個人技も際立っていたが、日本代表がチームとしてサモアを完全に押さえ込んだ証だった。

意見が割れてもPGを選択した理由

W杯での予想以上の活躍により、日本代表の人気は上がっている 【斉藤健仁】

 後半になると日本代表は「9シェイプ」だけでなく、SOを起点とした「10シェイプ」も使い、テンポ良く攻撃する。やはり、前半同様に、相手は接点で反則を繰り返して、FB五郎丸が7分と18分にPGを2本決めて、26対0と大きくリード。勝利しないことにはベスト8が遠のいてしまうサモアは、21分までに選手を6人交替。勝負に出る。

 すると23分に、警戒していたターンオーバーからのカウンターでトライを許し26対5と21点差に。日本代表はWTB山田がアクシデントで負傷交代、CTBマレ・サウも足を痛めていた。そんな中、日本代表は27分に敵陣でペナルティーを得る。「今後のことを考えて4トライ以上を狙うために、モールからトライを狙うのでは?」と思った。選手たちの中でも意見が割れたが、最終的にFLリーチ主将はPGを選択(ショット自体は外れた)。

「試合前からボーナスポイントのことは頭の中にありましたが、まずは勝つことを意識して試合に臨みました。それまでに、ジャパンのアタックをしていて、自分たちの足がちょっと止まってしまった。残り12分、相手はどっからでもトライを取れるチームなので、まずショットで勝ちにいった。もし入ったら、(トライを狙って)ボーナスポイントを取りに行く予定でした」(FLリーチ主将)

 もっと積極的に行ってほしいと思わせてしまうほど、日本代表は調子が良かった。ただ、実際に本気のサモアと戦っている肌感覚もあり、試合の最初から飛ばしてきた選手たちには肉体的、精神的疲労もあったようだ。アイランダーへの苦手意識、そして前回のワールドカップでも最後にカナダに追いつかれたことも頭をよぎったのかもしれない。また96キャップ目のLO大野は「南アフリカ戦より緊張しました。ここで下手な試合をして負けたら、ラグビー人気が崩れてしまうかもしれない」と語ったように、勝ちにこだわっていた。リーチ主将の判断を尊重したいと思う。

「小さいが技術的に正しいのが日本のラグビー」

会見に臨むジョーンズHC(左)とリーチ主将 【斉藤健仁】

 試合は、そのまま26対5で日本代表の勝利でノーサイドを迎えた。ただ指揮官は、決して100%満足することはなかった。「今日はファンタスティックです。前半は20対0で折り返すことができた。ただ後半はうまくいかなかった部分もあって、ワールドカップレベルでもっとできたはずのプレーがでまきなかったことは残念です。もう2トライは取れたでしょう」(ジョーンズHC)

 ただ、いずれにせよ、日本代表は南アフリカ戦に続いて、8大会目にして、初めて一大会で2勝を挙げた。また一つ歴史を塗り替えた。そして約3万人の観客を前にして、日本代表の強さを見せつけることに成功した。9月最初に現地入りしてから、ジョーンズHCは、「今大会の目標の一つとして、日本もラグビーをプレーしている国としてリスペクトを受けること」という発言を繰り返してきたが、そのターゲットの一つは、サモア戦の快勝で十二分に達成されたはずだ。

 オーストラリア人と日本人のハーフとして、身長173センチながら、HOで活躍してきたジョーンズHCとしては、「(選手時代は)小さい選手が大きい選手に勝つことがモチベーションになっていた」と語っていたように、かつての自分を、世界的に見れば小さい日本代表に照らし合わせているはずだ。「選手にふさわしい環境を作り、日本代表が真剣に戦えることを示してきた。相手と比べれば小さいが、技術的には正しい。それが日本のラグビーです」

 予選プールは日本時間12日4時開始のアメリカ戦を残すのみとなった。プールBは南アフリカが勝点11で1位、スコットランドが勝点10で2位、日本代表は勝点8で3位につけている。日本代表は自力で決勝トーナメントに進出することはできない。それでもアメリカ戦に向けて最善を尽くし、天命を待つしかない。10日、スコットランドがサモアに敗れれば、目標とするベスト8進出が大きく見えてくる。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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