再び「ベースボール」に屈した高校野球 必要な球界全体での後押し

中島大輔

情報不足、手探りの戦いだった日本

米国先発のプラットの巧みなけん制に誘い出され、5回にはオコエが一、二塁間で挟殺された 【写真は共同】

 高校野球100周年を迎えた今夏、U−18W杯であらためて露呈したのは、長期、そして短期における日本代表のマネジメント不足だ。

 米国が決勝の先発マウンドに送ったニコラス・プラットは、8月31日に行われたオーストラリア戦以来、今大会2度目の登板だった。セッチーニ監督は29日に日本と対戦し、さらに31日の登板を見て、プラットの中5日での起用を決めていたという。

「1回目の登板で素晴らしい投球をして、その時点で(決勝での先発起用が)頭にあった。日本との最初の対戦で学んだことのひとつとして、走るのがすごくうまい。それがプラットを投げさせたかった理由でもある。今日はひとつ、けん制死をとったが、プラットはそういうのがすごくうまい。そうしたことに対応できるピッチャーということで、彼を先発に選んだのはある」

 対して西谷監督は、手探りの戦いだったことを明かしている。

「(プラットについて)あまり情報はなかったです。独特の変化球で、前半に絞りきれなかったというか。チェンジアップというか、フォークというか、落ちるボールに対応できなかったですね。(米国には)いろんなピッチャーがいるので、誰が投げてくるのか分からない状態でした」

 16歳のプラットの投げるファストボールは130キロ台中盤から140キロ台前半だったが、打者の手元で動かしながら両コーナーを突いた。チェンジアップも効果抜群で、奥行きのある投球で7回途中1失点の好投でチームを優勝へと導き、自身は大会MVPに輝いている。

高校野球の延長だったU−18W杯

 一方、長い視点で高校日本代表を見ると、「侍ジャパン」という枠組みへの違和感を覚えた。果たして、高校球界における侍ジャパンは何のために存在するのだろうか。

 8月26日に行われた大学日本代表との壮行試合で、運営を取り仕切ったのは侍ジャパンを運営するNPBエンタープライズだった。世代を超えた初対決が実現したのは、これまでバラバラに存在してきた野球界を縦につなぐ侍ジャパンあってからこそだと言える。
 だが、U−18W杯で日本代表を仕切ったのは主管である日本高等学校野球連盟と、後援する朝日新聞社だ。世界野球ソフトボール連盟が主催し、大阪と兵庫を舞台に行われた18歳以下の国際大会は、日本にとってあくまで高校野球の延長だった。だからこそ、甲子園の全国大会や地方大会の日程が優先され、日本代表の選考会が行われることがない。いつまでも既存の枠組みにとらわれ、狭い視野で戦っているから、世界で勝てるわけがないのだ。

 日の丸をつけて臨む国際大会なのだから、侍ジャパンが取り仕切るべきではないだろうか。プロとアマを1本につなぎ、日本球界を一つに「結束」させるのが侍ジャパンの役割のはずだ。それならばプロ選手の派遣はまだ難しいとしても、U−12代表を率いる仁志敏久監督やU−15代表の鹿取義隆監督のように、プロの指導者をコーチとして入れるような発想がなぜ出てこないのか。

 今回のU−18W杯に限って言えば、侍ジャパンは単に日の丸をつけたチームの愛称にすぎなかった。

世界一へ脱却すべき内部事情

 西谷監督は試合後、選手たちが今回の経験を将来の糧とすることを願っている。

「世界で戦えるだけの力を日本の中でつけて、大学、社会人、トップチームという上のカテゴリーの侍ジャパンにこの中からたくさん選んでもらって。東京五輪で野球が復活したときに、ひとりでもこのなかから入っていけるような選手が出てくれば、この大会の経験が生きていると言えるんじゃないかと思います」

 木製バットへの対応力を見せた平沢大河(仙台育英)は、この先への手応えをつかんだ様子だ。

「世界のすごい強いチームとやったことで、すごくいい経験になりました。個人としては、そこまで世界とひけをとっていなかったのは自信になりました」

 決勝で5回から登板して無失点に抑え、最優秀防御率に輝いた上野翔太郎(中京大中京)は未来に目を向けた。

「U−18はこれで終わってしまいますけど、それぞれ違う進路というか、これからも(野球人生が)続くと思うので。僕はプロをあまり考えていないですけど、(世界を相手に)どこかでまた勝負できたらいいかなと思います」

 U−18日本代表の選手や首脳陣たちは初優勝を勝ち取るため、死力を尽くした。その結果が8勝1敗、得失点差は+76という圧倒的な成績だ。

 だが、「高校日本代表」は「ベースボール」の国からやって来た米国代表に、またしてもかなわなかった。

 なぜ、地の利のあった地元開催で悲願の世界一に輝くことはできなかったのか。内部の事情を理由にいつまでも同じ敗戦を繰り返すところから、高校野球はそろそろ脱却しなければならない。侍ジャパンも何のために存在するのか、少なくとも今大会ではその意義がまるで見られなかった。

 グラウンドで懸命に戦う選手や首脳陣たちを組織として後押しできなければ、日本野球に明るい未来はない。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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