【週刊グランドスラム249】これが社会人野球の厳しさだ――日産自動車九州が都市対抗福岡県一次予選で涙を呑む

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日産自動車九州は、春先から1点に泣いている。この悔しさを忘れず、秋の日本選手権九州最終予選に臨みたい。 【写真=古江美奈子】

 福岡県京都(みやこ)郡にあるJR日豊本線の苅田(かんだ)駅から、日産スターグラウンドまでの移動にはタクシーを利用する。行き先を告げると「今日は何の試合ですか?」と、運転手さんに問いかけられた。都市対抗予選だと伝えると、「以前は関係者や観戦に行かれる方をよく乗せていました。また始まるんですね」と懐かしそうに振り返る。都市対抗福岡県一次予選は、15年ぶりに活動を再開した日産自動車九州のグラウンドなどで4月27日から行なわれた。大型連休とあって多くの観客が足を運び、内野スタンドが埋まると外野で立ち見する人々の姿もあり、応援団の大きな声が響き渡った。
 熱い声援を受ける日産自動車九州は、一回戦でARC九州を相手に17安打の猛攻を見せ、9対1で快勝した。「やはり、都市対抗予選となると緊張感が違いますね。序盤、選手には硬さが見られました」とは、植山文彦監督。活動再開後の公式戦初勝利に安堵し、翌28日はJR九州との代表決定戦に臨む。

応援団のリードで、観客も熱い声援を送る。苅田町にも社会人野球の熱が戻ってきた。 【写真=古江美奈子】

 先発を託されたのは、新人の田村晃雅。1回表、先頭の山脇彰太に四球を与えて二盗を許し、続く山田遼平の左前安打で1点を失う。3回表には山脇、山田に連続ソロ本塁打を浴びて、3点を追う展開となった。反撃したい日産自動車九州打線は3回裏、七番の森岡幸汰がチーム初安打となる左中間への二塁打で出塁すると、進塁打で一死三塁とし、柴田友行の中犠飛で1点を返す。さらに、5回裏には五番・三原大地の2試合連続となるソロ本塁打で1点差に迫る。4回途中から二番手でマウンドに登った髙田大樹は、一死満塁のピンチを遊ゴロ併殺で凌ぐと、6回以降は3者凡退に抑える好投を見せる。流れは、日産自動車九州に傾いたか。
 7回裏には、二死から金子隼人の二塁打と死球で好機を作るも、あと1本が出ない。続く8回裏も、一死三塁から無得点。そして、9回裏にも金子、森岡の連打で一死二、三塁と攻め立てるが、またも決定打が出ずに惜敗した。
「8、9回に、最低でも同点まで追いつかなければならなかった。私の采配ミスです」と植山監督。それでも、選手たちには「次戦に向けて切り替え、頑張りましょう」と気迫のこもった声をかけた。

都市対抗予選の厳しさを思い知らされる

 雨天順延で30日となった敗者復活代表決定戦の相手は、沖データコンピュータ教育学院だ。日産自動車九州は2回裏一死一、二塁から、一番・福永健介の右前安打で1点を先制する。だが、直後の3回表には沖データが3連打で同点に追いつく。4回以降は両投手が粘投し、同点のまま試合が進む。そうして迎えた9回表、是永翔稀の右前安打で沖データが1点を勝ち越した。追いつきたい日産自動車九州だが、打線がつながらずにゲームセット。またしても1点差で敗れ、九州二次予選に進むことはできなかった。

2試合連続アーチの三原大地をはじめ、選手たちは着実に力をつけている。 【写真=古江美奈子】

 勝ち切れない――。植山監督の隣で選手を見詰める小川正洋ヘッドコーチも、指揮官と同様にそう口にする。小川コーチは日産自動車九州が創部された1986年に入社し、中心選手として活躍して主将も担った。都市対抗の大舞台も経験し、2001年に現役引退。その後は日産いわき工場で勤務するも、「かつて一緒に戦った植山監督の力になれるなら」と、今季から復帰した。
「私が在籍していた頃は、打力のあるチームでした。もう一度、強力打線を作り上げたい。そのためにも、しっかり守って攻撃に移ることが重要です。守備から崩れないチーム作りを目指しています。都市対抗をかけた負けられない試合では、互いに限界のもうひとつ上の力が発揮される。それをものにできるかどうか。日頃の練習から、自分を追い込むことも必要です。そして、どんな場面でも平常心で戦えるよう指導していきます」
 応援に駆けつけた人たちは、「いい試合を見せてもらった」や「また頑張ってね」と、選手たちに声をかけながらグラウンドを後にする。苅田町には、社会人野球熱が戻ってきた。この悔しさは、秋に晴らしてもらいたい。
【取材・文=古江美奈子】

【左=紙版表紙・右=電子版表紙】

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著者プロフィール

1949年に設立した社会人野球を統轄する(公財)日本野球連盟の公式アカウントです。全国の企業、クラブチームが所属し、中学硬式や女子野球の団体も加盟しています。1993年から刊行している社会人野球オフィシャル・ガイド『グランドスラム』の編集部と連携し、都市対抗野球大会をはじめ、社会人野球の魅力や様々な情報を、毎週金曜日に更新する『週刊グランドスラム』などでお届けします。

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