ハリルホジッチが見せたリアリストの顔 日々是東亜杯2015(8月5日@武漢)

宇都宮徹壱

「リアリストになる必要があった」

5年ぶりの日本戦勝利を目指した韓国にとっても、満足のいかない結果であった 【宇都宮徹壱】

 守備は及第点、しかし攻撃は課題が山積。そのことはハリルホジッチ自身も痛感していた。「われわれのチームは特にディフェンス面で強さを見せたと思う」と語る一方で、オフェンス面に関しては「北朝鮮戦に比べてそれほどビッグチャンスを作ることはできなかった」と率直に認めている。チャンスを多く作りながらも逆転負けを喫した北朝鮮戦。そして限られたチャンスを生かしてかろうじて引き分けに持ち込んだ韓国戦。結果だけを見れば後者を評価すべきなのだろうが、さりとて多くのファンがこの日のゲームに満足できたとも思えない。

 個人的に興味深く感じたのは、ハリルホジッチがこの試合の結果を非常に重視し、なおかつ韓国に対して「今大会で最も強い相手」と認識していたことである。実際、先のアジアカップでファイナルまで進出した韓国は、現時点でのチームの完成度という意味においては日本をはるかに上回っていた。ゆえに指揮官は「リアリストになる必要」があると強く感じていたという。再び、会見のコメントから引用する。

「この試合の準備をする上で、われわれがどのようなクオリティーを持っているか、認識する必要があった。チームとしてどんな選手を抱えているか、どういうクオリティーなのか、というところから考えた。(中略)われわれは、ある程度リアリストになる必要があった」

 今回のような危機的な状況を、これまでハリルホジッチは何度もくぐり抜けてきたはずだ。そしてつい1年前にも、かなり似たような状況を経験している。アルジェリア代表を率いて臨んだ、W杯のグループリーグである。初戦でアルジェリアはベルギーに1−2で敗れており、まさに後がない状況。第2戦の相手は、くしくもこの日と同じ韓国であった。ここで指揮官は、システムを4−3−3から5−4−1に大きく変え、メンバーを5人も入れ替える決断を下す。結果、狙いすましたカウンターサッカーが見事にハマり、アルジェリアは韓国に4−2で勝利。続くロシアとの第3戦も1−1で引き分け、初のグループリーグ突破を果たしている。

 今回の東アジアカップでも、ハリルホジッチは初戦の敗戦を受けて、システムと戦術を変え、メンバーも5人入れ替えた(人数が一緒なのは単なる偶然だろう)。違っていたのは、結果だけである。もちろん「消極的なサッカーでお茶を濁した」という見方も可能だろうが、私はむしろ「状況に応じたリアリスティックな戦い方をしていた」と見る。頑なに縦方向への攻撃を志向するのではなく、また協会に苦言を呈するだけでもなく、いざとなれば現有戦力で最大限の成果を出す。そうした柔軟性と引き出しの多さ、そして経験の豊富さを評価したからこそ、JFAは三顧の礼を持ってハリルホジッチを迎えたはずだ。

 まだまだ不満はあるが、個人的にはハリルホジッチの指導者としての力量を信じたい。そして9日の中国戦では、気持ちの良い勝利をプレゼントしてくれることも。

<翌日につづく>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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