市民参加型の新クラブとなったパルマ 過去を断ち切りセリエDから再スタート

片野道郎

また別の「パルマ」が産声をあげる

全盛期を築いたスカーラを会長(中央)にして、新クラブ「パルマ1913」を設立 【Getty Images】

 イタリアサッカー協会(FIGC)は7月26日、アマチュアのトップリーグであるセリエD(4部・実質セミプロ)に、今年6月に設立された新クラブ「パルマ1913」の参加を認めることを発表した。

 この「パルマ1913」(以下「新パルマ」)は、前オーナーの乱脈経営を原因とする財政破綻により、セリエAを最下位で終えた昨シーズン限りで破産・消滅した「パルマFC」(以下「旧パルマ」)を後継する形で、新たに都市パルマを代表するサッカークラブとなる。

 クラブの会長に就任したのは、1990年代にパルマを率いてカップウィナーズカップ、UEFAカップを勝ち取る全盛期を築いたネヴィオ・スカーラ。テクニカルディレクター(TD)には当時リベロとして活躍したロレンツォ・ミノッティ、監督にも当時のセンターバックであるルイジ・アポローニと、パルマに強い愛着を持つOBが顔をそろえた。

 ひとつの「パルマ」がなくなっても、また別の「パルマ」が都市のシンボルとして産声をあげ、スタジアムやサポーターといった「歴史的資産」を継承してクラブの伝統を受け継いでいく。その仕組みが確立されているところに、サッカーというスポーツがイタリア社会にどれだけ深く根付いているかが表れている。

リスクの大きさに手を引かれた旧パルマ

一時はホームゲームの開催すらままならないほど深刻な資金難に直面した 【写真:ロイター/アフロ】

 この「パルマ1913」の新プロジェクトについて触れる前に、旧パルマが破産・消滅に至った経緯を振り返っておこう。

 前オーナーのトンマーゾ・ギラルディが巨額の負債を積み上げた結果、数千万ユーロ(数十億円)の税金を滞納したかどで、パルマ裁判所が「パルマFC」に破産宣告を下したのが3月19日のこと。当時、クラブはホームゲームの開催すらままならないほど深刻な資金難に直面しており、このままではセリエAを最後まで戦い切ることすら危ぶまれるという状況にあった。これに対してFIGCはレーガ・セリエAを通して特別融資を行うことを決め、シーズン途中のリーグ参加取り止めという最悪の事態だけは回避した。

 パルマはその後もユべントスを破り(1−0)、インテル(1−1)、ナポリ(2−2)と引き分けるなどプライドと意地を見せて健闘、最下位という成績にもかかわらずイタリア中から大きな賞賛を集めてシーズンを終えることになる。

 しかし、旧パルマが破産・消滅を逃れて存続し、降格が決まったセリエBで新シーズンを戦うためには、裁判所が任命した破産管財人の下で競売にかけられたクラブを落札・買収して負債を清算し、破産から救い出す「エンジェル投資家」が必要だった。

 クラブが積み上げた負債は、未払いの人件費などチームにかかわる「スポーツ的負債」だけでおよそ7000万ユーロ(約95億円)、さらに取引先への支払いや税金などの滞納分を含めた「一般負債」が約8800万ユーロ(約120億円)で、総計1億5000万ユーロ(約205億円)以上に上っていた。

 買収の最終期限は6月23日。主将のアレッサンドロ・ルカレッリをはじめとする選手やスタッフは、未払い分給料のほとんどを断念する形で「スポーツ的負債」の圧縮に協力し、最終的には2260万ユーロ(約31億円)までこれを切り下げた。さらに裁判所から任命された破産管財人も債権者に対して権利放棄を強く求めて、一般負債の80%にあたる7100万ユーロ(約97億円)を反故(ほご)にすることで合意を取り付けたため、新オーナーが清算すべき負債は約4000万ユーロ(約54億円)まで削減されていた。

 買収に手を挙げたのは、地元パルマでシネマコンプレックス「ザ・スペース・シネマ」を経営する実業家ジュゼッペ・コラードが設立した「マジコ・パルマ」、そして元MLBの名捕手でドジャーズ時代には野茂英雄とバッテリーを組んでいたイタリア系アメリカ人マイク・ピアッツァ(野球選手としてはピアザという名前の方が通りがいいかもしれない)が設立した「ヌオーヴォ・パルマ・カルチョ」という2つの運営会社。

 しかしそのいずれも、約4000万ユーロという決して少なくない買収資金に加え、関連会社などの負債がどれだけの規模に達しているかが把握されていないこともあり、その投資リスクの大きさに尻込みする形で最終的には手を引くことになった。それが確定した買収期限の6月23日が、そのまま旧パルマ破産・消滅の決定日となった。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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