パルマ財政危機問題の経緯と展望 異常な経営体質で膨れ上がった巨額の債務

片野道郎

破産手続きか、セリエA撤退か?

深刻な財政難が発覚したパルマ。このままでは破産手続きか、セリエA撤退は避けられそうにない 【写真:Maurizio Borsari/アフロ】

 イタリア・セリエAが非常事態に直面している。

 リーグ最下位パルマの財政難が深刻化して、ホームゲーム開催やアウェー遠征、スタジアムや練習場の維持管理といった最低限のクラブ運営費用にも事欠くほどになり、2月22日のウディネーゼ戦(ホーム)、そして3月1日のジェノア戦(アウェー)が中止・延期となった。

 選手は昨年7月分、チーム職員は11月分から給料を受け取っておらず、税金の滞納や取引業者への未払い金はそれぞれ数千万ユーロ(数十億円)に上る。クラブの抱える累積債務は、総計で1億5000万ユーロ(約200億円)を大きく超える巨額に膨れ上がっている。

 2月半ばには、パルマ検察局が税金滞納を理由として、パルマに対して破産宣告を行った。3月19日の第1回聴聞までにクラブ側が再建案を提示しない場合には、一方的な破産手続きに入ることになる。

 セリエAのリーグ規程では、参加チームが4試合続けて試合をキャンセルした場合には、自動的にリーグへの参加資格が取り消され、残り試合はすべて記録上0−3の不戦敗という扱いになることが定められている。したがって、もしこのままの状況が続き、今週末8日のアタランタ戦(ホーム)、そして来週末15日のサッスオーロ戦(アウェー)が中止となった場合には、上記の破産手続きを待たずに、パルマのセリエA撤退が決まるわけだ。

 ここに至って、これまで事態を静観してきたイタリアサッカー協会(FIGC)もやっと重い腰を上げる。セリエA参加20クラブによって構成されるレーガ・セリエAが6日(金)に臨時総会を開き、救済措置について検討することになった。

 しかし、もしここで各クラブの意見が割れ、パルマがシーズンを最後まで戦うための支援策がまとまらなければ、今週末のホームゲーム(対アタランタ)も中止・延期となることは避けられない。そうなれば「時限爆弾」のスイッチが入ることになる。

04年に破綻、ギラルディがオーナーに就任

 この状況を前にして誰もが思うのは、なぜこんな状況になるまで問題が放置されてきたのかということ。その問いに答えるためには、まずここまでの経緯を振り返る必要がある。

 2000年代に中田英寿が所属していた当時のパルマは、地元に本社を置く国際的な食品・乳業メーカー「パルマラット」の傘下にあった。しかしそのパルマラットが04年末、不正会計操作によって約100億ユーロ(約1兆3366億円)にも上る巨額の損失を隠蔽(いんぺい)していたことが明るみに出て破綻。パルマも親会社とともに政府の管理下で一度負債を清算、ACパルマからパルマFCに名称を変えて新会社として出直すことになる。管財人の下で経営が安定してきた07年1月、再建委員会が行った競売を通してクラブの経営権を買収したのが、昨年11月までオーナー会長として経営に当たってきたトンマーゾ・ギラルディだった。

 ギラルディは1975年生まれで現在39歳。パルマの隣県ロンバルディア州ブレシア県の小都市に本拠を置く工業用ベアリングメーカー「ラ・レオネッサ」の3代目で、母親が経営する同社の副会長を努めている。パルマを買収するまでは、地元の小さなクラブ・カルペネードロのオーナー会長として、チームをアマチュアで一番下のカテゴリからセリエC2(4部リーグ)まで昇格させるという実績を誇っていた。

 ギラルディが会長になってからのパルマは、08年に一度セリエBに降格したものの1年で復帰し、09−10シーズンからはセリエAで8位、12位、8位、10位と中位に定着。そして昨シーズン(13−14)は、就任3年目のロベルト・ドナドーニ監督の下で6位に躍進して、UEFA(欧州サッカー連盟)ヨーロッパリーグ(EL)への出場権を手に入れるまでになった。

14−15シーズンのEL出場権が剥奪

 しかし、クラブとして順調な発展を遂げているように見えたこの時が、パルマがその後わずか9カ月の間に経験することになる急激なちょう落の始まりだった。

 6位でシーズンを終えて間もない昨年5月末、手続き上の不手際により約60万ユーロ(約8000万円)の税金支払いが遅れたことを理由に、UEFAクラブライセンスが取得できないことが明らかになり、ピッチ上で勝ち取ったEL出場権が剥奪されるという「事件」が起こる。

 ギラルディは記者会見を開いて「リーグとサッカー協会に手続きを相談してその通りにした結果、ELを失った。この世界は腐っている。もうサッカーからは足を洗う」と大見得を切り、会長辞任とクラブの売却を表明した。クラブの運営は、ゼネラルディレクターのピエトロ・レオナルディに委ねられた。

 この時には、ギラルディはリーグや協会の融通の利かないお役所的対応によってヨーロッパへの切符を剥奪された「被害者」であるように見えた。しかし後になって発覚したのは、この13−14シーズン末の時点で、パルマはすでに1億ユーロ(約134億円)を超える累積債務を抱えていたという事実。税金の支払いが遅れたのも、資金繰りが悪化してキャッシュが不足していたためだった。

 にもかかわらず、この時点でリーグが定める財務基準(前年度分の給料が3カ月以上遅配されていない、移籍金の支払いが滞納していない等)はクリアしていたため、パルマは続く14−15シーズンにも問題なく登録を果たし、セリエAを戦うことになった。

 こうしてシーズンが始まった9月、ギラルディは「クラブを売りに出したが買い手がつかなかった。このまま私が去ったらクラブは消滅してしまう」と言って会長に復帰する。これで一連の問題は決着し、経営の継続性と安定性は確保されたように見えた。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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