FC今治に立ちはだかるライバルたち 四国リーグの3強、それぞれの思惑

宇都宮徹壱

トラスターに苦戦を強いられたFC今治

前半と後半の20分には給水タイムが設けられた。その間も細かい指示を与える高知Uトラスターの川田監督(左) 【宇都宮徹壱】

 翌26日、春野球技場ではFC今治とトラスターの全社の切符を懸けた試合が行われた。キックオフは午前10時。この日も暑い一日になりそうだ。トラスターの控室から、川田監督の情熱のこもった言葉が聞こえてくる。「大事なのは名前負けしないこと。ユニホームの色や相手の経歴に負けないこと。われわれにだって、ポテンシャルも経験もあるし、結果も出している。自信をもっていこう!」。すると選手たちの間からも「よっしゃ、勝ってやろうぜ!」という掛け声が挙がる。5月17日のリーグ戦では、FC今治に2−1で勝利しているだけに、トラスターの選手たちに相手への気負いは微塵(みじん)も感じられなかった。

 むしろ気負っていたのは、FC今治のほうだったのかもしれない。相手の激しいプレッシングに受け身に回ってしまい、常に後手後手の展開を余儀なくされる。ようやくボールを奪っても、パスコースをしっかり封じられ、迷っている間に再びボールを奪われる。その後もゲームの主導権はトラスターが握り、前半35分には左からのクロスに長身FW田尻将が頭で合わせ、待望の先制ゴールを挙げる。FC今治はまったく良いところなく、1点ビハインドでハーフタイム。この日、観戦に訪れていた岡田武史オーナーは、苦虫を噛み潰したような表情で戦況を見守っていた。

 後半、FC今治は乙部翔平と高橋康平を下げ、小野田将人と土井拓斗をピッチに送り出す。前線にフレッシュな選手が入り、さらにいつものポゼッションから相手の裏を狙う縦方向のパスに切り替えたことで、FC今治の動きは見違えるように改善された。そして後半15分には中野圭、30分には赤井秀一の連続ゴールで逆転に成功。さらに38分には、長尾善公が豪快なミドルシュートをたたき込んでスコアを3−1とする。トラスターも最後まで諦めずに走り続けたが、暑さによる体力消耗はいかんともしがたい。最後は、普段からの練習量の差が出る形で、FC今治が2年ぶり6回目となる全社出場権を獲得した。

 試合後、トラスターの川田監督は「相手がボールを持つタイプなので、それに対してどうポジショニングをしてプレスをかけていくかがポイントでした。(後半に逆転されたのは)疲労はもちろんあったのですが、やはり今治さんとの力の差はあったと思います」と素直に完敗を認めた。その上で指揮官は「この敗戦は、次につながる敗戦だと思っています。結果を悲観する必要もないし、むしろここで得た教訓を生かさない手はないと選手に伝えました」と語る。次のリーグ戦での対戦は9月20日。おそらくこの結果で、四国リーグのタイトルの行方は決するはずだ。

メソッドとは別のプラスアルファ

FC今治に新加入した元日本代表の山田。試合前には、一人一人の選手に気合いを注入していた 【宇都宮徹壱】

 今回の全社予選は、敗れたトラスターのみならず、勝ったFC今治にとっても教訓を残すことになったと言えるだろう。岡田オーナーは、こう語る。

「前半はイライラしたね。課題がものすごく明確になった。やっていることは悪くないけれど、ボール際の強さとか全力で上がり下がりするとか、みんな8割くらいなんだよ。(前半に押し込まれたのは)あれは自滅だね。無理につなぐ必要なんかなくて、ボンと蹴ってこぼれ球を拾うのでも何ら問題ない。まあ、指導のほうもメソッドの落とし込みばかりやっているから、頭(考え方)はそれでいいけれど、心を忘れている。本当は(頭と心を)両立させながら成長していかないといけない」

 以前にも指摘したことだが、最近のFC今治は結果と内容の間での葛藤が続いているように思えてならない。結果とは「四国リーグ優勝とJFL昇格」であり、内容とは「戦いながら岡田メソッドを実現させる」ことである。木村孝洋監督は、「ポゼッションを前提にサッカーをしているわけではない。ゲームの中で最適の動きをするようにしている」と試合後に語っていたが、選手の動きからは「ポゼッションしなければ」という迷いのようなものが時おり感じられた。試合展開によっては、ポゼッションを放棄してゴールに迫るような割り切りは必要だし、むしろ全社の本大会や地域決勝では「自分たちのサッカー」的なものは通用しないと考えたようがよい。その意味で今のFC今治には、メソッドとは別のプラスアルファが必要である。

 全社予選の第2試合、アイゴッソ対多度津のゲームは、FC今治に前週に移籍したばかりの山田卓也とスタンド観戦した。元日本代表のキャリアを持つ40歳。東京ヴェルディ、C大阪、横浜FCなどを渡り歩き、北米サッカーリーグのFCタンパベイでのプレー(10〜15年)を経て、「岡田武史さんの熱に打たれ」四国リーグへの参戦を決断した。「全社に出られたくらいで大喜びしているようじゃ、まだまだだよね」と手厳しい意見を言う一方で、「リーグ戦で対戦するアイゴッソの試合を見ておきたい」と居残り視察をチームに志願するところなどは、さすがだなと思ってしまう。試合は6−0でアイゴッソが圧勝。FC今治とともに、四国代表として全社に挑むこととなった。

 ところで山田獲得の理由について、岡田オーナーは「ハートだね。あの球際の強さ、戦う姿勢というものを若い選手に植えつけてほしい」と語っている。山田のほかにも、スペイン人のダヴィッド・コロミナス・サウラ、そして元日本代表の市川大祐(前藤枝MYFC)の加入が発表された。いずれも「メソッドとは別のプラスアルファ」の補強と見て間違いないだろう。それにしても──と、私は考え込んでしまう。元日本代表監督がオーナーを務めるチームに、代表経験者とスペイン人が加入してくるなんて、ほんの2年前の四国リーグではまったく考えられなかったことだ。しかもそのライバルチームもまた、UEFAのライセンス保持者やJFAの育成担当の元トップに率いられているのである。何やらカオスの様相を呈してきた四国リーグ。3強による今季の優勝争いは、果たしてどのようなフィナーレを迎えることになるのだろうか。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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