FC今治が追い求める「結果」と「内容」 JFL昇格の道に必要な割り切りや柔軟性

宇都宮徹壱

高知勢との三つ巴が続く四国リーグ

今季の前半戦を振り返る岡田オーナー。前節、トライスターに敗れたものの悲観はしていない 【宇都宮徹壱】

 四国リーグ、FC今治の取材で久々に今治市を訪れたのは、試合前日の5月23日であった。前回はたまたま大阪での取材から移動したので、フェリーとバスを乗り継いできたのだが、今回は飛行機とバスと列車での移動。今治には空港がないため、空路を使う場合は必ず松山を経由しなければならない。松山から今治へはJR予讃線に乗って、特急なら約40分、各駅停車なら1時間ほどかかる。鈍行列車は1両か2両編成のワンマンで、単線を走るため途中何度か停車を余儀なくされる。通過電車を待ちながら、車窓に映る田園風景を眺めていると、東京での慌ただしい生活が、何やら遠い異国の出来事のように思えてくる。

 今回、試合前日に訪れたのは、FC今治の岡田武史オーナーへのインタビュー取材が組まれていたからである(インタビューの内容は後日アップされる予定)。岡田オーナーには聞いてみたいことが山ほどあったのだが、まず確認したかったのは四国リーグの前半戦をどう見ているかである。開幕戦から第4節まで、3−0、8−0、8−0、7−0と大量得点&無失点で連勝。ところが第5節のアイゴッソ高知戦(アウェー)で2−1と初失点を喫すると、続く第6節の高知Uトラスターとの全勝対決(アウェー)では1−2と初の敗戦を喫した。この結果、FC今治は今季初めて、首位の座をトラスターに譲ることとなってしまう。しかしオーナーは、現状をさほど悲観していない様子。

「先週は確かに負けたんですけれど、試合内容に関しては特に前半は今までで一番良かった。『うまくなったなあ』と思いましたね。ところが、まだまだ甘い選手たちなので、相手を巧みにかわすようなパスが通るとそこで勘違いしてしまって。それと勝負というのはまた別だからね。こちらが主導権を握っていたんだけれど、FKを決められたり、カウンターからすごいシュートを決められたり。もうちょっと勝負に対する厳しさがほしいね」

 開幕前からの予想どおり、今季の四国リーグはFC今治、そしてトラスターとアイゴッソという高知勢の3強が争う展開となっている。現在首位のトラスターは13年から高知大と提携し、昨シーズンの四国リーグを制覇。一方3位のアイゴッソは、四国リーグが創設された77年から一度も県リーグに降格することなく参加し続けている古豪で、かつては南国高知FCとして01年から5連覇を達成している。前期リーグの最終戦では、この高知の両雄が対戦。そして2位のFC今治は、やはり高知を本拠とするllamas(リャーマス)高知FCをホームに迎える。FC今治としては、裏の試合での潰し合いを期待しつつ、ここはしっかりと勝利して首位で後半戦を迎えたいところだ。

6ゴールで圧倒するも、その後は沈黙

先制点を決めた赤井秀一(中央)と祝福する長尾善公(左)。長尾もこの試合で4得点を挙げた 【宇都宮徹壱】

 試合会場は、いつもの今治市桜井海浜ふれあい広場サッカー場。予報では雨が心配されたものの、この日は日差しの強い好天となった。ホーム開幕戦では880人の観客が訪れていたが、この日も890人もの観客が集まって満員御礼。その後もFC今治への関心が薄れていないことに、ひとまず安堵(あんど)する。もっとも、レプリカユニホームを着て応援をしているのは、ホーム開幕戦と同じ3人だけ。声出しのサポーターは、もうちょっと増えてほしいところである。

 試合前には、ちょっとばかりユニークなアトラクションがあった。青野慶久(サイボウズ株式会社代表取締役社長)、日比野克彦(アーティスト)、古田敦也(野球解説者)といったFC今治のアドバイザーリーボードの面々が登場し、それぞれのサイン入りボールをスタンドに蹴り込んだのである。野球好きが多い今治市民にしてみれば、古田の登場にさぞかし盛り上がったことだろう。にしても、それぞれ多忙を極める多士済済(たしせいせい)が、四国の地方都市のスポーツ施設に集結するというのは、考えてみればすごいことである。今さらながらに、岡田オーナーの求心力を実感した。

 試合については、得点経過を中心に振り返ることにしたい。序盤から守りを固めてきたリャーマスに対して、FC今治はいつものようにワンタッチ、あるいはツータッチパスを繰り返しながらポゼッションを高めていくものの、なかなか相手のブロックを崩せない。先制点が生まれたのは前半16分。流れるようなパスワークから、最後は赤井秀一が右足で蹴りこんで今季初ゴールを決める。赤井は、愛媛FCで10シーズンにわたってプレーしてきた、愛媛サポにとっては思い入れの強い選手。スタンドには、このゴールを感慨深く見守った人も少なくなかったはずだ。20分には、左サイドから高橋康平がドリブルで持ち込んでシュートし、GKが弾いたところを長尾善公が詰めて追加点。さらに43分には、小野田将人の思い切りのよいミドルシュートが炸裂し、前半は3−0で終了する。

 後半は、2点目を挙げた長尾が大爆発。後半1分、10分、11分と連続ゴールを決めて、あっという間に6点差に開く。これは4試合ぶりの8点差か、あるいは今季初の2ケタ得点か──と思ったら、その後が何とも締まらない。相変わらずパスはつながるものの、なかなか決定的なチャンスを作れないまま時間ばかりが過ぎてゆく。この日、4ゴールを挙げて後半36分にベンチに退いた長尾は「選手の間では『もういいだろう』という気分があったのかもしれませんね。今後の得失点差を考えたら、本当はもっと取っておくべき」と反省しきり。まったくもって、その通りだと思う。今季の四国リーグは、「見えないライバル」を常に意識しながら戦っていく必要がある。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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