日本大会後に残るラグビーW杯の遺産とは レガシーコーディネーターが考える成功
イングランド大会のレガシープログラム
スクリーンを使いながら参加者に過去の大会でのレガシープログラムを紹介する西機氏 【スポーツナビ】
イングランド大会では4年前から巨額を投じてクラブハウスやフィールドといったハード面の整備に力を入れている。
「特にクラブハウスにお金をかけて改装、改築、整備をイングランド協会は進めている。いくつかのクラブを指定して、地域の人たちが集まる交流の場を作ることを一生懸命に進めています」
また、「イングランドはラグビーの母国ながら、中学校などでラグビーが行われることがほとんどない状況だった」と西機氏は言う。その理由として、「クラブ組織が非常にしっかりしているので、ラグビーはクラブでやるものだという認識が非常に強いんです」と説明。そこで学校での対抗戦など公立学校にラグビーを導入することを推進し、昨年までで300校が導入。今年で400校を見込み、19年には750校がラグビーのプログラムを行うよう推進していくという。これが「インパクトビヨンド」となる。
その他にも、タッチラグビーを行える施設を全国234カ所に設置し、成人が男女問わず仕事の後などに立ち寄って気軽にラグビーを体感できるようにしたり、欧州でラグビーがあまり盛んではない国とイングランドの地域協会が協定を結び交流するプロジェクトなど、ユニバーサル(一般的)かつグローバルなスポーツにするという取り組みも行われている。
ラグビーW杯が日本にもたらすもの
しかし、ファミリーを増大させるという意味では決して成功しているとは言えない。JRFUは競技人口を20万人とすることを目標に掲げているが、実際には現時点で約10万人。西機氏も「残り5年で競技人口を倍にできるかというと非常に厳しい数字です。レガシープログラムでラグビーファミリーをどのように増やしていくか、ということを一生懸命考えているところです」と話した。
「ラグビーのW杯が日本に来ることで、戦略計画を立てて代表をさらに強くし、ファミリーを増やす。レバレッジ効果――、すなわち“てこの原理”で既存の計画を向上させたり、加速させたり、成果をあげることを目指したいと考えています。日本協会が立てた戦略計画は19年で止まっています。これをしっかり見直し、その先の東京五輪や、さらにその先を見つめながらラグビーの普及に取り組んでいきたいと考えています」
西機氏が具体的に考えている施策として重要なのは、「ラグビーに関心がない人へのアプローチ」だと強調する。JRFUは日本大会に向けて、開催都市と連携しながらリソース(人材)を増やす取り組みを開始した。文部科学省が立ち上げた「RWC2019普及啓発事業」の実施策を各開催都市へ提供することや、普及指導者の人材育成、アジアにラグビーレガシーを残すことなどを計画しているものの、すべての施策が「ラグビーをしたい人」すなわち競技者への施策となってしまっている。
「ラグビーを“する”だけではなく、“見る”“支える”とならないといけない」と西機氏は語る。例えば、観戦することへの付加価値を付けること。相撲のように観客へお土産を用意したり、観戦しながらおいしい食事をとってパーティーなどができるスタジアム環境の整備をすることなどである。また、大会を支えるボランティアへのアプローチも重要だ。ニュージーランド大会では約6千人ものボランティアスタッフが運営に携わっており、日本大会でも「ボランティアの方々の力、活躍なくして大会の成功はない」。この多くのボランティアが経験した運営ノウハウを19年の本大会だけでなく、どのようにその後へとつなげていくのか。そのためにはボランティアスタッフの選考以前から計画的に活動を行っていかなくてはならない。
ラグビーW杯は日本全国で試合が開催される数少ない大きな国際大会である。そのメリットを生かし、「国や地方自治体の施策とか民間企業の取り組みというものが期待されますし、そのきっかけを与える仕組みを作りたいと考えています」と西機氏。国民が盛り上がり、「ラグビーW杯が日本であって良かった。また、単にラグビーファンが面白かったと思うだけでなく、『ラグビーW杯を日本に誘致して良かった』と国民が盛り上がる大会にしたい」と西機氏。「日本にしか残っていない“ノーサイドの精神”を世界に発信すべく、皆さん一緒になって大会を成功させましょう」と語り、第1部をしめくくった。