いまだ薄れないNYでのイチローの記憶 人気の高さと実力健在を示した凱旋
少なかった元同僚との再会
3000安打に迫るAロッド(右)とイチロー。記録達成の難しさを知る者同士だから分かる思いを共感したような光景だった 【写真は共同】
「(対戦するのは)知らないピッチャーだったりでさ。(マイケル・)ピネダもそんなに知らなかったし。田中(将大)は別として、CC(・サバシア)とかかなあ。誰かいるのかなあ。そう考えると誰もいないしね」
イチロー本人のそんな言葉が示す通り、特に投手陣は世代交代が進んでいる。チーム全体を見ても、ジーター、マリアーノ・リベラ、アンディ・ペティットといった重鎮が去り、今のヤンキースには強烈なスター性がある選手は少なくなった。現在のロースター内で、その存在だけで“客が呼べる”のは、もはやアレックス・ロドリゲスくらいのものではないか。
イチローの中にあるNYの記憶
ここでは結局、ストレートの四球で歩かされ、記録達成はならず。それでもスタンディングオベーションを浴びて打席に立った元同僚の姿を見て、自身も3000安打にあと114本に迫ったイチローには思うところがあったようだ。
「さすがに3000本は良い雰囲気でやってほしいと思っていた。それはここに来ないと分からなかったからねえ。(ウィリー・)メイズのときは、あんまりとか聞いていたんで。少なくともこの球場の中では盛り上がっているなと思いましたよ。良かったなと思った。人のことなんですけど、ほっとしている感じです」
Aロッドは5月8日にメイズを抜く通算661号本塁打を放ったが、度重なる薬物使用事件で出場停止処分を受けた後ゆえ、記録到達時も盛大なセレモニーは行われなかった。そんな事情を知ったイチローの言葉は、記録達成の難しさを知る者のシンパシーだったのだろう。
また、「ここに来ないと分からなかった」という言葉が、13年の自身の日米通算4000安打達成時のことを指していたことは想像に難くない。イチローにとってニューヨークでの最大のハイライトと言えるあの日。ヤンキー・スタジアムの一塁ベース上に同僚たちが集まり、最高のシーンを作り出してくれた。
その栄光の記憶が、Aロッドの記録への挑戦の中で静かによみがえった。地元ファンをも歓喜させた瞬間が、イチローの中でも依然として忘れられない思い出となっていることはどうやら間違いないようである。