いまだ薄れないNYでのイチローの記憶 人気の高さと実力健在を示した凱旋

杉浦大介

少なかった元同僚との再会

3000安打に迫るAロッド(右)とイチロー。記録達成の難しさを知る者同士だから分かる思いを共感したような光景だった 【写真は共同】

 今回の“イチローのニューヨークへの帰還”で1つ残念だったのは、盟友デレク・ジーターもすでに引退し、ハイライトになるような元同僚との絡みが少なかったことだった。もちろん多くの選手、スタッフから歓待を受けてはいたが、イチローが入団した12年と比べてチームはかなり様変わりしている。

「(対戦するのは)知らないピッチャーだったりでさ。(マイケル・)ピネダもそんなに知らなかったし。田中(将大)は別として、CC(・サバシア)とかかなあ。誰かいるのかなあ。そう考えると誰もいないしね」

 イチロー本人のそんな言葉が示す通り、特に投手陣は世代交代が進んでいる。チーム全体を見ても、ジーター、マリアーノ・リベラ、アンディ・ペティットといった重鎮が去り、今のヤンキースには強烈なスター性がある選手は少なくなった。現在のロースター内で、その存在だけで“客が呼べる”のは、もはやアレックス・ロドリゲスくらいのものではないか。

イチローの中にあるNYの記憶

 そのAロッドこと、ロドリゲスが18日、イチローの目の前で印象的なシーンを演出してくれた。この試合で3打席目までに2安打を放ったAロッドは、これで通算2999安打。8回裏にはマイルストーンに挑む打席に立った。
 ここでは結局、ストレートの四球で歩かされ、記録達成はならず。それでもスタンディングオベーションを浴びて打席に立った元同僚の姿を見て、自身も3000安打にあと114本に迫ったイチローには思うところがあったようだ。

「さすがに3000本は良い雰囲気でやってほしいと思っていた。それはここに来ないと分からなかったからねえ。(ウィリー・)メイズのときは、あんまりとか聞いていたんで。少なくともこの球場の中では盛り上がっているなと思いましたよ。良かったなと思った。人のことなんですけど、ほっとしている感じです」

 Aロッドは5月8日にメイズを抜く通算661号本塁打を放ったが、度重なる薬物使用事件で出場停止処分を受けた後ゆえ、記録到達時も盛大なセレモニーは行われなかった。そんな事情を知ったイチローの言葉は、記録達成の難しさを知る者のシンパシーだったのだろう。

 また、「ここに来ないと分からなかった」という言葉が、13年の自身の日米通算4000安打達成時のことを指していたことは想像に難くない。イチローにとってニューヨークでの最大のハイライトと言えるあの日。ヤンキー・スタジアムの一塁ベース上に同僚たちが集まり、最高のシーンを作り出してくれた。

 その栄光の記憶が、Aロッドの記録への挑戦の中で静かによみがえった。地元ファンをも歓喜させた瞬間が、イチローの中でも依然として忘れられない思い出となっていることはどうやら間違いないようである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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