“If”の多いヤンキースを待つ運命は? 早期の低迷か、それとも優勝争いか

杉浦大介

重鎮すべて去り、残ったのは元スター

今季、薬物使用による出場停止から復帰するアレックス・ロドリゲスのほか、ヤンキース内には数え切れない「?」マークが存在する 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

「一番人気は現役時代も今も常にデレク・ジーターよ。え、現役選手の中で? そうね……人気のある選手は何人かいるけど……」

 3月中旬、タイムズスクエアにあるヤンキースのチームショップに立ち寄ったときのこと――。最もグッズ売れ行きの良い選手を尋ねると、快活な女性店員は考え込んでしまった。そんな姿が、目玉不在となった2015年のヤンキースを象徴しているのかもしれない。

 ジーター、マリアーノ・リベラといった黄金期を支えてきた重鎮たちがついにすべていなくなり、残ったのは寄せ集めの元スター軍団。カルロス・ベルトラン、マーク・テシェイラ、ジャコビー・エルズベリー、C.C.サバシアといったビッグネームは属してはいるが、スタメンの中で30歳以下は新加入のディディ・グレゴリアスの1人だけである。フレッシュな魅力に欠けるため、今年は地元の注目度もエースのマット・ハービーが復帰したメッツに劣るのが現状だ。

「A・ロッドが話題を呼んだからまだ良かったけど」

 キャンプ地のタンパを訪れた記者たちからも、そんな声が聞こえてきた。今春は薬物使用による出場停止から復帰したアレックス・ロドリゲスに視線が集中し、開幕後もそれは変わらないだろう。そして、このA・ロッドが再び貢献できるか以外にも、チーム内にクエスチョンマークは数え切れないほどある。

悪ければ早期に低迷する可能性も

「“If”クラブへようこそ。もしも田中将大の右腕が持ちこたえたら、C.C.サバシアが2011年の状態に戻ったら、マイケル・ピネダが健康を保ったら、(先発5番手の)アダム・ウォーレンが成長したら……」

 米国で最も権威あるスポーツ雑誌『スポーツ・イラストレイテッド』誌の開幕展望号に、匿名スカウトの言葉としてそんな記述があった。

 野手陣を見渡しても、疑問点は数え切れない。昨季は不振に終わったベルトラン、ブライアン・マキャン、テシェイラのベテラントリオは復調できるか。正遊撃手を任されるグレゴリアスはジーターの穴を無事に埋められるか。人望に定評あるマキャンはクラブハウスの新リーダーとして定着できるか。これらの不確定要素の多くが悪い方向に運んだ場合、早い時期から低迷する可能性もある。

 昨年、一昨年と連続でプレーオフを逸したが、過去2年はリベラ、ジーターの引退ツアーを盛大に行うことでファンの思いをごまかすことができた。しかし、もうそのカードは残っていない。3年連続プレーオフ逸という屈辱に向けて突き進んだ場合、ヤンキースとそのファンにとって、今季は過去20年で最も寒々しいシーズンになるに違いない。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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