イチローとマーリンズの相乗効果に期待 明るい未来へ、踏み出した一歩

伊武弘多

笑顔が絶えない51番の周り

キャンプ合流後、イチローは早速チームに溶け込み、はつらつとしたプレーを披露。新天地での滑り出しは順調なようだ 【写真は共同】

 大リーグ3球団目となる新天地のマーリンズで、イチローが米15年目のキャンプをスタートさせた。24日(日本時間25日)の野手合流初日には、3年ぶりに背番号51の ユニホーム姿を披露。グラブをチームカラーのオレンジ色に新調し、黒色だったバットもオリックス時代の白木に変え、心機一転。再出発を切った41歳の表情はキャンプ地のフロリダの青空のように澄み切っていた。

 マーリンズは若い選手が多く、イチローいわく「ラテン系のノリ」。そんな明るい雰囲気に最年長のベテランも溶け込んだ。その裏には球団側のちょっとした配慮もあった。クラブハウスでは各選手のロッカーが背番号順に並んでいるが、51番のロッカーは人の流れが多く、立ち止まりやすい食堂付近の角に特別に配置された。初日の全体練習後には24歳のマルセル・オズーナ外野手や22歳のホセ・フェルナンデス投手ら中南米系の選手を中心に、51番の周りに自然と輪ができ、笑顔が絶えなかった。

 子供のころからイチローのプレーを見ていたという23歳のクリスチャン・イエリッチ外野手は「(イチローとオズーナは)練習中もずっと冗談を言い合っていたよ(笑)。イチローは将来殿堂入りするような偉大な選手なのに気さくに話をしてくれた」とうれしそう。キャッチボールの相手を務めるマイク・モース内野手は「彼は若い選手のお手本だ。同じ外野手のイエリッチには特に好影響を与えるはずだよ」。イチロー効果を期待する声は多く、歓迎ムードに包まれている。

新天地で水を得た魚

 イチロー自身もそんな周囲の期待を背に、水を得た魚のようにはつらつとした動きが目立つ。居残りでバント練習を若い選手らと一緒に取り組んだり、30メー トル間の往復ダッシュで年下の選手らに混じって、グラウンドに座り込むまで走り抜いたり。マイク・レドモンド監督がキャンプイン前に「若い選手と一緒にプレーすることに刺激を感じると思うし、若い選手も彼から学ぶことは多い」と話していた相乗効果が早くも見られたことはチームにとっても、なじみの薄かったナ・リーグの球団に飛び込んだイチローにとっても収穫と言えるだろう。

 昨季まで所属したヤンキースでは、データを極端に重視するジョー・ジラルディ監督の下、起用法で苦渋を舐めることも多かった。実績のほとんどない若手選手より下位の打順を打つ試合も多く、我慢の日々を過ごしただけに、実績と経験を素直に評価してくれるマーリンズの空気を心地良く感じているはずだ。

最高の外野陣+最高の4番手

 マーリンズには右翼に昨季ナ・リーグ本塁打王でオフに13年総額3億2500万ドル(約380億円)の大型契約を結んだ25歳のジャンカルロ・スタントン、中堅に将来のスターと目されている24歳のオズーナ、左翼に1番打者で23歳のイエリッチと、ESPNがリーグ最高と評価した外野陣がいる。そこに、イチローが4番手として加入したことでさらに厚みが増した。この「厚み」こそが、チームが必要としていたものだった。

 昨季は終盤にスタントンがけがで戦線離脱した際など主力を欠いた後、大幅な戦力ダウンを避けられなかった。大リーグ公式サイトで2002年からマーリンズの番記者を務めるジョー・フリサロ氏は「プレーオフに進むためには(レギュラーの)9人ではなく、25人の選手が必要。けがに強くて実績のあるイチローがベンチにいるのは大きい。リーグ最高の4番手だ」と分析する。全試合出場を目標に掲げているという外野のレギュラー3人が健在なら、イチローの出場機会は限られてくる。だが、そのうちの誰かが故障や不振に陥った場合、昨季控え中心の起用で打率2割8分4厘をマークした左打者の存在感は増す。

 レドモンド監督から「若い選手の手本」としての役割も期待されるイチローだが、「立場は同じ選手だから。僕から何かということはまったくない」と4番手に甘んじるつもりはない。大リーグ通算3000安打に156本と迫る安打製造機がリーグ屈指の外野陣に挑む構図は、過渡期の段階から勝利を目指す集団へ移行しているチームにとって理想的な競争力だと言える。

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