宮市亮が語るトゥエンテ挑戦で得たもの 不本意なシーズンにつかんだ新たな武器

中田徹

調子が悪い中で高まった守備への意識

これまで攻撃のことばかり考えていた宮市。守備にも目を向けることで、リズムをつかんだ 【Getty Images】

 トップチームの試合では開始20分で息が上がることもあった宮市だが、2部リーグでのゴールシーンや、アヤックス・リザーブチーム戦のシュートシーン、アイントホーフェン戦のロングドリブルを、彼は全て試合の後半で披露している。相手が疲れてスペースが生まれたということもあるだろうが、宮市自身のコンディションが向上していたことも間違いない。それでは、90分間を通じてのパフォーマンスに関して、宮市はどう分析するのだろう? 宮市の答えはいきなりスランプ脱出の話へ飛んだ。

「メンタルが落ち込んでいた時に、『今やれるのは何か』ということを考えた。『攻撃していても相手を全然抜けないし、スピードも出ない。今、自分は何ができるかな』と考えた時『守備ならできるかもしれない』と考えた。それで守備に目を向けてみようと思ったら、『結構できる』という感触を得た。だから今シーズンは守備で起点を作っていこうという気持ちでやっていました。90分の中で守備でも良いところを見せることができたと思いますね。

 それまで、自分の中で守備を評価していませんでした。『守備ができたってしょうがないでしょ。自分はやっぱり攻撃的な選手だから、魅せないといけないでしょ』というところがあったんですけれど、守備ができる奴はチームに必要ですし、守備ができることも自分の中で褒めてあげればいいんじゃないかって。攻撃、攻撃となっていた自分だったけど、守備でボールを取るのも結構楽しいという気持ちになった」

――メンタルが崩れて、自分を褒めるところがなかった。そこから立て直して行ったんだね?

 自分の悪いところをすごく見ていた。でも、できるところを見てあげようよって。そうしたら守備に目が向いた。抜けない、シュートが打てない。でも、それは全部攻撃じゃないですか。だけど守備のことを全然見ていなかった。守備に目を向けてみようと思ったら、リズムができてきて、乗っていけるようになったかな。それが新たな発見というか。今後、サッカー人生において帰るポイントができたんじゃないかと思います。今までそんなことを考えていませんでしたから。調子が悪いと「なんで調子が悪いんだよ」って。それで、また問題が後回しにされて解決しないまま時間が過ぎるみたいな。その繰り返しだったと思います。

走り方を矯正し、スピードを取り戻す

 ヘーレンフェーン戦ではミスを続けて自信を失い、戦う姿勢も失って顔が下を向いた。そこでチームメートから「顔を上げろよ」と叱責された。しかし、今は「ダメならダメで守備で頑張ろう」というポイントができた。そうしたら、もう一回試合の中で持ち直せる可能性がある。宮市はしみじみと言う。

「これまで、なんだかんだ自分の長所だけでやってこれましたが、(イングランド時代に)けがとかがあってシーズンを通じて試合に出ることもなくなり、自分の課題というのが正直言ってよく分からなかった。アーセナルでリザーブリーグに出ていても不定期で2週間に1回とか、たまに試合がなくなったりとか。だけどトゥエンテ・リザーブチームは1週間に1、2試合あるので、そこから課題が見えてきたというのはあります」

 パールプラッツコーチとのシュート練習、守備からリズムをつかむことに加え、宮市は武器だったスプリント力の作り直しに精を出していた。

「スピードは戻りましたね。チーム練習が終わった後とか、家に戻ってから公園でスプリントのトレーニングをやりました」

――芝生の上?

 コンクリートの上です。

――けがはしないのか?

 逆にそれがいいんですよ、反発を受けるのが。それがスピードを作りやすい。陸上選手みたいな練習なんですけれど、自分にとってすごく大事なことだなと思って、いろいろ試しました。そのうちメンタルと身体が徐々に合ってきました。

――トレーナーが付いていたのか?

 はい。日本人の陸上経験者です。

 トレーナーの指導によって、走り方も矯正した。

「フェイエノールト時代の走り方というのはハムストリングに(負荷が)かかる走りだったと思うんですよ。でも18歳のときだから、まだ身体ができあがってない。それが20歳で筋肉が付いてきて体重も増えてきた。それでやってたら(ハムストリングが)切れちゃった。だから、走り方も変わったと思いますね。今はお尻にくるようになったので。それまではハムストリングの力だけでやっていたんですけれど、お尻を使って走れるようになりました」

決して歩みを止めていたわけではない

宮市は2部でのプレー機会を作ってくれたスフローダー監督(右)に感謝している 【VI-Images via Getty Images】

――フェイエノールト時代は視線が下がってボールだけ見ているイメージがあった。

 僕もフェイエノールト時代の映像を見ると、確かに1対1の爆発力はすごいけれど、それ以外のプレーは自分で見ても「なんだ、このプレーは!?」というのが多かった。「お前、素人!? そんなところでボールを取られちゃうの?」みたいな。あの時は高校生の勢いで行ったので学生のノリ。それからアーセナルへ行って、みんな大人のサッカーをしていたので、これじゃダメなんだぞと。スペースがあったら行くのではなくて、とりあえず待って。フェイエノールトの時は自陣でボールを持っても「行けー!」。それも楽しかったんですが……。

――でもアイントホーフェン戦のドリブルは昔のノリが出たね。

 そうですね。そういうのも大事だと思いますよ。あれで一気にチャンスになるので、それも判断だと思いますし、やっぱりインパクトがありますよね。

――オランダ2部リーグだと、ホームゲームは観衆が100人を割る試合もあったけれど、その辺りはどうなのか?

 あまり気にならなかったです。むしろ「試合に出させてくれてありがとう」という感じでした。本来は一軍でプレーすることを期待されて僕はここに来てますし、スフローダー監督には申し訳ない気持ちですけれど、その中で使う機会を作ってくれた。ましてや自分は期限付き移籍で来た選手。こういう機会をくれて本当に良かったです。

――とりわけリザーブチームの選手にとっては宮市選手が来ない方がいい。

 そう、そう。

――でもゴールを決めると駆け寄ってくれていた。

 それはありがたかったです。ヤン(・ザウトマン)も熱い監督でよかったです。

  宮市の今季の成績はオランダ1部リーグに10試合出場しノーゴール。2部リーグでは14試合に出て、3ゴールを記録した。全くもって不本意なシーズンだった。しかし、彼は決して歩みを止めていたわけではない。「あのトゥエンテ時代があったから、今の宮市亮がいる」――そう後に振り返ることができる日が来ることを願っている。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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