東南アジアでサッカー事業を行う日本人 斉藤泰一郎の尽きない情熱と異色の経歴

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シンガポールリーグ初の日本人プロ選手

東南アジアでサッカービジネスを展開する斉藤(中央)。その経歴は実にユニークだ 【写真提供:GFA & GFA Soriya】

 近年、東南アジアではサッカー熱が高まっている。特に人気があるのはイングランドのプレミアリーグで、海外放映権料の高騰が顕著だという。今や同リーグにとって、東南アジアからの放映権料は欠かせないものとなっており、その事実を取ってみても、いかに関心が高いかが分かる。

 そうした影響もあるのか、各国のレベルも徐々にだが、確実に上がってきている。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)では、タイのブリーラム・ユナイテッドが日本や韓国のクラブと対等に渡り合い、昨年10月にはミャンマーがU−20ワールドカップへの出場権を獲得した。

 そんな成長著しい東南アジアで、サッカービジネスを展開する日本人がいる。斉藤泰一郎、39歳。現在シンガポールで『サムライプライベートリミテッド』を、カンボジアで『GFA(Global Football Academy) Soriya』を経営している。主な事業内容は、サッカースクールやサッカーイベントの運営、トライアウトのコーディネーションなど多岐に渡る。

 その経歴は実にユニークだ。1975年8月16日、フィリピンのマニラ生まれ。3歳で帰国したが、小学校3年から中学校2年まで父の仕事の都合もあり、シンガポールで生活していた。その後、日本に戻った斉藤は早稲田実業高校、早稲田大学と進み、99年にシンガポールリーグで初の日本人プロサッカー選手となった。

 今でこそ東南アジアへの移籍は増えているものの、当時はほぼ皆無。斉藤も知人の叔父がシンガポールで仕事をしており、その関係で同リーグの情報を知ったという。

「僕は中盤やFWをやっていたんですけど、そんなにテクニシャンじゃなく、運動量やチェイシングが持ち味で、体を張るタイプの選手でした。大学時代はまったく試合に出られず、監督の視野にも入っていなかった。日本でプロになれるレベルじゃなかったし、普通は就職しますよね。でも興味がわかず、どうしようかなと思って1年留年したときに、そういう情報が入ってきて……。シンガポールは過去に生活していたし、これは何かの運命じゃないかと勝手に勘違いして、トライアウトを受けに行ったんです。最初は知人の叔父さんが手伝ってくれたんですけど、途中からは自分でいろいろなチームに電話してカタコトの英語で、『I am Japanese. Give me a chance.』とお願いしていました(笑)」

引退後にシンガポールで起業

現役引退後にシンガポールで起業。狙いをつけた施策が当たり、事業はすぐに軌道に乗った 【写真提供:GFA & GFA Soriya】

 そうした努力が実り、2部のカルサとプロ契約を結んだ斉藤は、その後シンガポールの3チームでプレーし、アフリカのガーナやオーストラリアといった国々を渡り歩いた。引退したのは08年、32歳のときだ。

「シドニーの州リーグでプレーしてから、ボリビアのトライアウトを受けました。2部のチームから声がかかったんですけど、給料が安くてアルバイトをしなければいけないなと思って……。32歳になって、その状況でサッカーを続けることを考えたとき、他の形でもサッカーに関われるんじゃないかと自然に感じられたんです」

 斉藤が選んだのは自ら起業することだった。翌09年にシンガポールでスクールやイベントを運営する『サムライプライベートリミテッド』を仲間と設立。従業員は斉藤を含めて3人しかいなかった。それにしてもなぜシンガポールだったのか。

「第2の母国で住みやすいというのが1つ。あとは会社の起業条件が簡単で、税金も最初の1年間は免除されたりとか、スタートアップに有利な環境が整っていたので、ここで勝負をしようと思ったんです」

 事業はすぐに軌道に乗った。斉藤が目を付けたのはシンガポールで働く日本人を中心とした日系コミュニティーだ。「国内でそれなりのマーケットとされていたためアセット(資産)と考え、ここにリーチしたい日系企業がいるはず」という仮説を立て、「スポンサーになってください。その代わりこの層へのアプローチで協業できます」と営業をかけた。さらに当時、シンガポールの日系コミュニティーにはなかったU−14のカテゴリーを作り、アカデミーとしての縦の幅を増やしていった。こうした狙いが当たり、事業の柱を確立するに至ったのである。

「この事業というのは突き詰めると現場なんです。大会も現場がどれだけ楽しくて面白いか。スクールやアカデミーでもコーチングで子どもたちの注目をどれだけ引きつけ、みんながどれだけ充実した時間を過ごせるか。営業も誰がキーマンで、どういうプレゼンができるか。こういうことには絶対的に自信があったので『これはいける』と感じていました」

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