東南アジアでサッカー事業を行う日本人 斉藤泰一郎の尽きない情熱と異色の経歴

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手応えを感じているヤマハの事例

ここ数年はスポーツマーケティングに力を入れている。ヤマハの事例では手応えを感じたようだ 【写真提供:GFA & GFA Soriya】

 12年からは事業をカンボジアにも展開。『GFA Soriya』というサッカーアカデミーを仲間と作った。するとすぐに現地のトヨタ・カンボジアがユニホームの胸スポンサーに、しばらくたった後、今度はヤマハ・モーター・カンボジアが背中のスポンサーに付いた。

 ヤマハについては、ここ数年力を入れているスポーツマーケティングの事例として手応えを感じている。カンボジアの交通手段は多くがバイク。しかし、すでにホンダが9割近くシェアを占めていた。テレビなどの広告戦略が思うようにいかない中で、後発のヤマハが注目したのが今後バイクを購入するであろう小学生、中学生の子どもたちだった。斉藤ら『GFA Soriya』のコーチが学校を回り、ヤマハの冠でサッカースクールを行う。そこで楽しい時間を過ごしてもらえば、子どもたちはもちろん親にも「YAMAHA」という名前が印象に残ってくる。この3年で実に66の小学校でこうしたスクールやイベントを開催し、通算でおよそ8000人を動員したという。その効果もあってか、ヤマハのバイクの売り上げも少しずつではあるが、対象地域で確実に反応が出てきた。

「日本にもセルジオ越後さんのクリニックがあるじゃないですか。それと似ている部分があるかもしれないですけど、サッカーの普及活動をしながら、企業のマーケティングやブランディングのお手伝いもできればという考えでやらさせてもらってます。(企業側の売り上げにも影響が出てきており)こういう状況は我々もうれしい。子どもたちもサッカーで楽しい時間を過ごしてうれしいし、スポンサーとなってくれているヤマハさんもうれしい。こんな形でサッカーが役に立っていて、それが明日の糧につながるというのは、やりがいを感じますね」

 こうした優れたビジネス感覚を持つ斉藤だが、これは日本の外資系企業で営業として働いた経験が生かされている。斉藤はシンガポールの最初のチームでプロ契約を結んだあと、けがのため1度日本に帰国し、就職している。そこで約2年半にわたって吸収したビジネスのノウハウが現在の仕事につながっているという。

「ITバブルの最後の方で、資本金が1億円から10億円になったようなちょうど勢いのある会社でした。ITサービスのセールスをしていたのですが、お客さんのニーズを考えその背景を読み取らなければなりません。そういったプロセスのおかげで営業の鉄則を学ばせてもらいました。そして起業にあたっては、これから取り組もうとしているものは自分が大好きなサッカーなので、絶対に熱を持ってプレゼンができるなと思っていました」

仕事を続ける原動力

斉藤はこれからもサッカーを通じて、日本と東南アジアの架け橋となっていく 【写真提供:GFA & GFA Soriya】

 現在、斉藤はシンガポールリーグ1部に所属するホーガンユナイテッドFCの運営にも携わっている。主に担当するのは強化とマーケティングだ。斉藤らはその一環として日本人選手をチームに引き入れた。今は5人の日本人選手が同チームに所属している。「やっぱり日本人選手がいると日系マーケットに対してマーケティングがしやすくなるし、純粋に戦力としても期待している」と、その狙いを明かす。

 昨年のAFC U−19選手権で日本代表として出場した内山裕貴もホーガンユナイテッドでプレーする1人だ。斉藤いわく「(内山は)アジアの過酷な環境でメンタルとフィジカルを磨きにきた」という。コンサドーレ札幌からの1年間の期限付き移籍だが、年代別の日本代表選手を獲得できたのも、アジアに根ざす斉藤らGFAのネットワークの成せる技であろう。

「シンガポールでプレーしていたこともあり、現地ではすでにいろいろ交流をさせてもらっていました。そして出会いに恵まれ仲間たちと会社を作ったことで、さらに広い範囲でチームや他団体ともコネクションができてきました。そうした中で選手からも、直接だったり知人を介してだったりで『東南アジアでチャンスはありませんか?』と問い合わせが来るようになりました。それなら選手とチームのマッチングが成り立つと感じたんです」

 斉藤にとってシンガポールは第2の母国。とはいえ東南アジアでビジネスを展開することは決して楽ではなかったはずだ。斉藤がこの仕事を続ける原動力となっているものは何なのだろうか。「言葉にすると難しいんですけど、久しぶりにサッカーをすると、ただ無邪気に良いプレーをしたい、楽しみたいと思う子どものような感覚があるじゃないですか。自分がそうだから子どもたちにもそういう気持ちを味わってほしいし、選手たちにもピッチに立つ気持ちの高ぶりを感じてもらいたい。僕が仕事をすることで、選手やチームがハッピーになれるかもしれないと思うと楽しいんです」。そう目を輝かせる斉藤はこれからもサッカーを通じて、日本と東南アジアの架け橋となっていく。

(取材・文 大橋護良/スポーツナビ)

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