オランダを制したPSVの変わらぬ魅力 2年がかりで奪い取ったリーグ王者の栄冠
新米監督コクーとクラブ首脳陣の絆
13−14シーズンから指揮を執るコクー監督 【Getty Images】
シーズン後半戦に入ると、フース・ヒディンクがアドバイザー役になり、チームの成績が向上したことも、コクーの手腕に疑問を募らせる結果となった。腫瘍により、シーズン終盤は療養に務めるなど、健康面でもコクーにとっては気の毒なシーズンだった。結局、PSVは4位とダメージを最小限に止めたが、専門家とのインタビューでもオフレコで「コクー? あれはダメな監督だ。一度、公開練習で選手を怒鳴り散らしただろう。あれは、テレビカメラを意識したパフォーマンスだ」という話を私は聞いた。一方、同世代のフランク・デ・ブールはアヤックスを4連覇に導いており、親友でありライバルとの指導者としての名声は広がるばかりであった。
だがPSVの首脳陣は、コクーの指導者としてのタレントを疑わなかった。クラブ内から「彼は学ぶスピードが早い」という声が聞こえてくるのは、私のような部外者では分からないニュアンスを関係者は感じていたのだろう。就任1年目のコクーが“ホーラント・スホール”と呼ばれる「攻撃的で、ポゼッションを高くし、試合を支配するサッカー」に固執しつつも、突然、守備的戦術に切り替えたのと異なり、今季はイニシアチブを握れ、カウンターも狙える柔軟なチーム作りを成功させたのは彼の指導者としての実力であり、PSVの首脳陣のけい眼でもあったのだろう。
7年前から変わらないクラブの本質
7年前、最終戦でフィテッセに勝って優勝を決めたメンバーにはエウレリョ・ゴメス、アルシデス(以上ブラジル)、カルロス・サルシード(メキシコ)、エディソン・メンデス(エクアドル)、ティミー・シモンズ(ベルギー)、ジェフェルソン・ファルファン(ペルー、以上スタメン)、バラス・ジュジャク(ハンガリー)、スロボダン・ライコヴィッチ(セルビア)と多くの助っ人がいた。
しかし、今回のヘーレンフェーン戦に出た助っ人はグアルダードただ一人だけ。残るメンバーは全てオランダ人だった。PSVは“タイトルを金で買うチーム”から、“オランダ人のタレントを育てながらタイトルを狙うチーム”へと様変わりした。今回の優勝は、平均年齢19.9歳で立ち上がったチームが、経験と補強を積みながら22.6歳となり、新米監督が独り立ちした、2年がかりのプロジェクトのたまものだったのではないか。
かつての「憎たらしいほど強かったPSV」の姿には、まだ届かない。しかし、変わらないのは、今もPSVが温かな居心地のいいチームであること。バレンシアから期限付き移籍でやってきたグアルダードは、来期以降もPSVに残ることを強く希望し、完全移籍がかなった。DFのニコラ・イシマ=ミランもモナコからの完全移籍を願って、代理人が古巣と交渉中である。
しかし、プロフェッショナルである以上、ステップアップのタイミングを図っている選手もいる。「チームを優勝させる」という公約を果たしたワイナルドゥムとデパイは、その可能性が高い。デパイにはマンチェスター・ユナイテッド、パリ・サンジェルマン、リバプールが獲得に名乗りをあげており、PSVに少なくとも2500万ユーロ(約32.2億円)の移籍金を残していくと見られている。そんな彼が優勝を決めた直後、ゴール裏のサポーターの前でガッツポーズを繰り返し、一人咆哮し続けていたのは、フィテッセ戦での涙を思い出すと感慨深い。
こうして来季、PSVは7年ぶりにCLの舞台に帰ってくることになった。小粒になったかもしれない。脆さも隠せないかもしれない。それでもけれんみのない、清々しいサッカーを欧州の舞台で見せてくれるだろう。