bjリーグが大切にしてきたバランス 中野社長が読者の声に返答<後編>

大島和人

「企業チームとの試合は消化し切れていない」

企業チームと地域密着チームが同じステージで試合をすることに対し「消化し切れていない」と複雑な表情を見せた中野社長 【スポーツナビ】

――「選手の待遇が低すぎる」「日本人選手の収入(給料)が少なくてかわいそう」というファンの心配する声があるように、bjリーグのサラリーキャップはNBLに比べて少額ですが?

 bjリーグはどうしても給料を上げられないので、優秀な選手は企業チームに行っていますよね。給料を上げたらどうなるかというと、NBLでも地域密着型のチームは給料を払えなくなって苦しんだと思います。そういう現象が起きないために、いろんなアイデアはあると思うんです。たとえば、各チームに全日本クラスの選手を1名入れましょう。それはサラリーキャップ外でいいでしょうとか。選手個人に対してスポンサーが付くという方法もあるかもしれません。(ドラフトやサラリーキャップがない)欧州型がいいのか、米国型がいいのかという議論はあると思うんです。

――チームがつぶされず、存続していくために重要なことはどんなことだと思いますか? ファンからも「チーム存続への努力の仕方を考えてほしい」という意見が寄せられています。

 一番は格差のあるチーム同士が、いきなり試合をしてしまわないことですね。と言いながら、われわれのbjリーグもサラリーキャップ制がありながらも、球団同士に力の差が出てしまっています。それは正直に言うと、稼ぎが有るチームと無いチームの差です。

 今後も大切になるのが各社長さんたちの努力であり、地域の環境の問題だと思います。われわれはこの環境に慣れ親しんで10年間やってきていますし、ここ2〜3年で参入した球団さんも、そういう仕組みを勉強してから参入しています。それをいきなり変えるということで、目に見えない不安は出ると思います。

――「地域密着型は忘れないで」「bjが大切にしていることが薄れてしまう」という読者の声があるように、環境に恵まれた大スポンサーのある元実業団チームと同じ競争条件でやらなければいけなくなることに対して、bjリーグのブースターには抵抗もあると思いますが?

 私たちも同じですね。それはなぜかと言うと、私も(アルビレックスがJBLに参戦していたときに)それを経験しているからです。今もJALからチームを引き継いだ新潟の女子が、それを経験していますね。まだ私も消化し切れていない部分です。

 企業側の立場に立つと、企業の方たちはバスケットだけでなく、他の競技もすごく救ってくださっていますよね。世界で通用するような選手、チームを支えている現実があります。これは日本ならではだと思うので、頭から企業チームを否定することはできないんです。

(パトリック・)バウマン(FIBA事務総長)さんにしてみるとこういう国やシステムは経験がないんじゃないですか? なので、どうなんでしょうかね……。企業チームと地域密着チームが同じステージで試合をするときのルールみたいなものができたらいいんでしょうかね? そこはまだ消化し切れていないです。

――ブースターやファンの読者から「bjリーグの経営が不透明である」という指摘が多くありました。「株主構成やバランスシート、損益計算書といった財務諸表をなぜ公表していないのか?」という質問もあります。

 ホームページなどの、一般の人がご覧になれる環境には出していませんが、メディアなどから聞かれれば応じるという形になっています。

「われわれは土壌を作っている」

中野社長は、より多くの人にバスケットの魅力を知ってもらうために「われわれは土壌を作っている」と表現した 【スポーツナビ】

――これは何人かのファンの意見ですが、「バスケの未来よりも会社を守ることを重視しているように感じる」「結局は会社を無くすことができないのではないか?」というものがありました。bjリーグ株式会社の経営状態、債務が統合の障害になっているという見方もありますが、それについてはどうお考えですか?

 それはよく誤解される部分です。私が始まって3年目のbjリーグに呼ばれたときに、これだけのプロリーグをやろうと思ったら(資本金が)大体15億から20億、25億円はないとできないだろうと考えていました。15億円くらいが集まるという見込みから始めているんです。

 リーグ発足当初の6チーム、8チームの頃は、宣伝も含めて相当なパワーがかかりました。リーグから球団に相当な額の分配金を払っておりました。それはリーグの補助というよりも、商品である球団をより良いものにするためのお金として投資をしたものです。

 そのお金が負債と見られているんですけれども、一度も債務超過はしておりません。債務超過に陥らぬように毎年(資本を)増やしてきたんだろうという誤解もされるんですが、15億から20億円がなければ、もともとプロリーグを成り立たせることができないということです。

 黒字の年もありましたが、何年間か赤字が続いたことは事実です。日本協会の方からも「15億円も負債がある」というご指摘を受けましたが、負債ではなく出資という形で資本金・資本準備金を集め、その資金を使ってチームという商品を成り立たせるために投資をしてきたということで考えております。

――bjリーグの入会金はどういう仕組みになっているんですか? 「利益追求の感じがする」というファンの声もあります。

 一度参入されたら分配金が発生しますから、何年もいるうちに元が取れる性質のものです。(リーグ側から)各地に行って、さまざまな指導をしなければいけません。交通費や人件費もかかります。そのチームをしっかり商品化するために、いろんな情報を流したり、経費を流したりしなければいけない。ある程度のお金が必要ということで、参入金をいただいています。金額は2500万円です。

――「リーグ設立当初から日本人選手のレベルは上がってきているのか?」といった強化に関する質問も多かったです。bjリーグが大切にしている「地域密着」と「強化」のバランスについてはどうお考えでしょうか?

 トップの強化というところが、球団の方も私も一番悩んでいるところです。強化だけを考えてそれに向けて走るということに対して、不安に思う社長がいることも事実です。

 でも、私たちのリーグには地域の人たちが、チームができたことによって家族の張り合いが生まれたり、職場が元気になったという声を聞いている社長さんがいて、そこにやりがいを感じています。われわれはバスケットをやっていなかった方に、バスケットを語っていただくための土壌を作っているわけです。全日本クラスの選手たちが、沖縄や秋田のような試合会場で毎回プレーをすれば張り合いが出るし、強化につながると思います。

中野秀光

株式会社日本プロバスケットボールリーグ 代表取締役社長
1958年新潟県小千谷市生まれ。中学からバスケットボールを始め、白山高でインターハイ3年連続出場。卒業して家業を継ぎ、小千谷青年会議所理事長から2002年新潟アルビレックスの専務取締役を経て、04年社長就任。07年に株式会社日本プロバスケットボールリーグ社長就任。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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