アルガルベ杯に見るなでしこの厳しい現実 W杯仕様の戦術は本番までに仕上がるか?

小澤一郎

世界のサッカーが急成長

アルガルベ杯では9位に終わったなでしこジャパン。今大会で得た収穫と課題とは 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 3月4日から11日までポルトガルで開催されたアルガルベカップ2015(アルガルベ杯)は、決勝でフランスを破った米国が10度目となる優勝を飾った。11年から5年連続の参加となったなでしこジャパンは、2勝2敗で過去最低の9位に終わったが、佐々木則夫監督は大会期間中、「世界のサッカーの質、個の質が上ってきている現状を確認できた」と女子サッカーが世界的に成長著しい点を何度も口にした。欧米の強豪国のみならず「ニュージーランドやオーストラリアも含めて、どの国も非常にスキルフルになり、かつチームタクティクスも成長している。われわれがそういったチームに勝つには非常に難しい現状にある」と佐々木監督が述べるように、開幕まで3カ月を切ったFIFA女子ワールドカップカップ(W杯)カナダ2015に向けて日本の現在地がはっきり見えた大会となった。

 日本のFIFAランキングは現在4位(14年12月19日発表)で、カナダW杯では連覇の期待がかかる。ただし、W杯前哨戦となる今年のアルガルベ杯における他の強豪国、そして日本が第3戦で対戦したフランスの実力と成熟度を肌で感じた今、「W杯連覇」や「世界王者」という言葉は一度忘れ去った方がいいように思う。佐々木監督はフランスとの試合後、「今のわれわれがどのくらいできるのか、逆に言うと『胸を借りる』ようなチームとやれた」と発言していたが、今大会の収穫と課題を語る上では世界の女子サッカーの勢力図となでしこジャパンの現在地を正確に把握しておく必要がある。大会を取材し終えた率直な感想としては、W杯連覇はもちろんのこと、W杯ベスト4入りというのも非常に困難なミッションだ。その一番の要因が世界の急成長である。

世界のトレンドとなでしこの目指す方向性

佐々木監督は「今までよりも前へという意識を持たせている」と語る 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 今年のアルガルベ杯でグループCに入った日本は4日の初戦でデンマークと対戦した。W杯初戦のスイス戦をイメージして「W杯第1戦のシミュレーション」(佐々木監督)として臨んだ試合だったが、W杯出場権を逃して若手に切り替えた新生デンマークに足下をすくわれ1−2の敗戦を喫した。事前のスカウティングから相手がコンパクトな陣形で守備時には前がかりなプレッシング、攻撃時にはロングボールを使った大きな展開を仕掛けてくると分かっていながら対応できず、開始2分で失点すると同点で折り返した後半13分にも右サイドからの大きな展開からピンポイントで合わせられ勝ち越し弾を許した。

 大会中、海外組の一人であるMF宇津木瑠美(モンペリエHSC/フランス)は世界の急成長についてこう話していた。「元々フィジカルがあって、展開力のある欧州の選手たちがテクニックを付けて、ポゼッション力を高めている。逆に自分たちは元々持っているテクニックやポゼッション力に加えて、大きい展開にトライしている。そうした中でどれだけ成長していくかですが、海外の選手はフィジカルがあるから成長が速い。なぜなら、意識の問題で変えていけるから。日本人の場合、意識を持っても体を作っていかなければいけなかったり、今まで飛ばせた距離以上に(ボールを)飛ばさないといけないので無理もある」

 このデンマークのみならず、第2戦で対戦したポルトガルも戦略、戦術レベルで大きく見劣りすることはなく、コンパクトでプレッシャーのかかった状況下でも局面を打開できるだけの的確なテクニックと状況判断があった。なでしこジャパンからすれば第3戦で対戦する世界ランク3位のフランスとの試合で「世界」を感じる予定だったはずだが、幸か不幸かこのアルガルベ杯では初戦から成長著しい世界標準のサッカーと対峙(たいじ)することになったわけだ。そうした潮流の中、なでしこジャパンがカナダW杯に向けて今大会から取り入れたのがパスのレンジを広げたサッカーだ。佐々木監督は次のように説明する。

「われわれも相手もボールを常に動かすというイメージを持っていますので、時間とスペースができたら優先順位として今までよりも前へという意識を持たせています。チャンスと見たら前につける、裏を狙う。そうすることで相手が引いてくればまたボールを動かせる。あと、同サイド気味に仕掛けるリズムが多すぎるので、『チェンジサイド』の意識を高く持たせてより効果的に崩したい。今本当にどのチームも非常にコンパクトで戦術的な要素として連携、連動してボールを奪う力が出てきているので、下手に失ってしまうとリズムがつかめない。だからこそ、相手陣内でサッカーをやる。自陣に押し込まれたとしても、前への意識を持って相手を裏返しにして、そこからゾーンプレスでチェイシング、積極的な守備でリズムを変えてボールを奪い返していく。今大会ではそれをシビアに、現実的にやろうと準備しています」

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て渡西。2010年までバレンシアで5年間活動。2024年6月からは家族で再びスペインに移住。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在は、U-NEXTの専属解説者としてLALIGAの解説や関連番組の出演などもこなす。著書19冊(訳構成書含む)、新刊に「スペインで『上手い選手』が育つワケ」(ぱる出版)、「サッカー戦術の教科書」(マイナビ出版)。二児の父・パパコーチ。YouTube「Periodista」チャンネル。(株)アレナトーレ所属。

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