アルガルベ杯に見るなでしこの厳しい現実 W杯仕様の戦術は本番までに仕上がるか?

小澤一郎

鍵を握る大儀見のポジション

新戦術では大儀見が高い位置を取れるかが鍵を握る 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 MF宮間あや(岡山湯郷Belle)は「元々そんなに細かいサッカーをしていたわけではない」と解釈するが、特に守備戦術のレベルとカウンターの鋭さが増す世界の強豪国に勝つためのなでしこジャパンの新戦略としてボールを大切にする意識やポゼッション志向を低下させ、相手DFラインの背後を狙った長いレンジのパスやチェンジサイドのパスを多用することに舵を切った。そうしたサッカーで軸となるのがFW大儀見優季(Vflボルフスブルク/ドイツ)だ。心身両面で進化の著しい大儀見だが、何でもできてしまう器用さゆえにこれまでは中盤に下がってポストプレー、ゲームメークをする傾向にあった。

 しかし、佐々木監督がボールを保持する時間ではなく、ボールを持つ場所にプライオリティーを置く戦略を打ち出したことで、大儀見の頭の中にははっきりと「高い位置で駆け引きをしながら相手DFラインに脅威を与える仕事をする」というイメージが定着した。1−3と完敗だった第3戦のフランス戦では、後半に中盤の構成で劣勢に立ったチームを助けようと中盤に下がり始めた大儀見が、相手の激しいマークに合ったことで実際に2失点目を喫した。大儀見は「自分のところはどこも狙ってくるけれど、打開できればチャンスになるのでああいう場面での一人で打開できる力をこれから身に付けていきたい」と気丈に振る舞ったが、新たななでしこの戦い方においては大儀見が中盤に下がってくる時点で負け。

確かな収穫と成長も見えた

宇津木のボランチ起用など収穫もあった。W杯本番までにどのようなチームに仕上げてくるのか 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 その意味で、アイスランドとの順位決定戦の後半に試した宮間のトップ下と宇津木のボランチ起用は、高い位置で勝負を仕掛けるカナダW杯仕様のサッカーにフィットしそうだ。トレーニングを見ても、この2人はパスのレンジが長く、他の選手よりもコンマ何秒か早く大儀見の動きやその動きによって生み出されるギャップ・スペースを認知できている。加えて、このサッカーを機能させるためにはセンターバック(CB)からの配球もキーポイントで、宇津木同様に今大会で台頭した新戦力の一人で大型CBの川村優理(ベガルタ仙台レディース)にも期待したい。宮間が大会前に「やれることをやる。やるべきことをやる。やられなければいけないところをやられなければいけない」と語っていた通り、今年のアルガルベ杯ではやられるべくしてやられた。

 フランスに敗れた後、佐々木監督は「もっとしてやられるかなと思っていましたが、少し手応えを感じたのが現実。下を向くことなく、仕切り直してW杯に向けて準備をしていきたい」と語った。強気の発言にも感じるが、フランスとの前半は「相手がミドルゾーンに引いた中でも長短合わせたサッカーができた」(佐々木監督)という確かな収穫と成長が見えた。9位という順位は失望だったが、私は「絶対、フランスに喰らいつけるだけの力を日本の選手たちは持っている」という佐々木監督の言葉を信じながら、W杯までのなでしこジャパンの仕上がりを見守りたいと考えている。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て渡西。2010年までバレンシアで5年間活動。2024年6月からは家族で再びスペインに移住。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在は、U-NEXTの専属解説者としてLALIGAの解説や関連番組の出演などもこなす。著書19冊(訳構成書含む)、新刊に「スペインで『上手い選手』が育つワケ」(ぱる出版)、「サッカー戦術の教科書」(マイナビ出版)。二児の父・パパコーチ。YouTube「Periodista」チャンネル。(株)アレナトーレ所属。

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