スーパーラグビーに挑戦する稲垣啓太 「あの日本人ヤバイな、と言われたい」

向風見也

「自分からラグビーを取ったら何も残らない」

日本代表としても活躍する稲垣。南半球最高峰リーグへの挑戦を決めた 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 趣味はコーヒーだ。

「純粋に好きなんですけど、何か、身体に作用してくれないかと調べたんです。コーヒーといえば、カフェイン。これは筋トレをする前に摂ると、スイッチになる。うまく作用すれば体脂肪を燃焼してくれる……。生きていると、いろんなものを身体に入れるじゃないですか。そこで、どれだけ自分に合ったものを残すか、採り入れるか。食事も練習の知識も似たようなもので。そう考えると面白いかなと」

 群馬県太田市在住の考える人、稲垣啓太は、鋭角の成長曲線を描いてきた。

 関東学院大主将時代は関東大学リーグ戦で2部降格を経験も、2013年度には王者パナソニックの一員として国内最高峰のトップリーグで新人賞を獲得。翌14年には日本代表入りした。

 そして15年3月、オーストラリアはメルボルン・レベルズに加入する。南半球最高峰、スーパーラグビーへの参戦である。24歳。静かに航路を見据える。

「ここまで来ると、ラグビーをただ好きだからという思いだけではやっていないです。自分からラグビーを取ったら何も残らない。やるべきことをしっかりやらないと、だめになってしまう」

プロップとして驚異的な運動量

稲垣を高く評価するパナソニックのディーンズ監督 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 強さと重さが求められる左プロップのポジションにあって、運動量で魅せる。ボール保持者を倒してはすぐに起き上がり、また別のボール保持者を倒しにかかる。13年度トップリーグのリーグ戦では、チーム最多の148回ものタックル数を記録した。

 パナソニックでは、レッズを率いたことのあるフィリップ・ムーニー パフォーマンスマネージャーとともに、試合映像の振り返りなどでタックルの質をつぶさに分析。かつてクルセイダーズにいたアシュリー・ジョーンズ ストレングス&フィットネスアドバイザーには、身体のきれを高めるためのトレーニング方針を伝授されている。スーパーラグビー級の指導を、持ち前の情報処理能力でブレイクにつなげたのだ。

「安定している。試合に関わる回数が多く、インパクトも与えてくれる」

 今季就任した元オーストラリア代表ヘッドコーチ、ロビー・ディーンズ監督の評価である。

 環境は人をつくる。国際経験豊富な北関東の住人たちの影響下、稲垣自身、世界に興味を抱くようになった。

ディーンズ監督「扉を開けるチャンス」

日本人初のスーパーラグビープレイヤーとなった田中史朗は、稲垣に海外挑戦を勧めていた 【赤坂直人】

 芝の上では、こちらもレベルズで台頭した堀江翔太主将とスクラムを組んできた。チームメイトでスーパーラグビーのハイランダーズでもプレーする田中史朗副将からは、近隣の食堂「いばら」で海外挑戦を勧められたものだ。

 オファーが舞い降りたのも、自然の流れのようだった。

「来年からプロ選手としてやりたい、と話す機会を、僕がチームにつくってもらっていたんです。するとその場で、レベルズからの話が来ている、と」

 世間に知られる前のこと。社員選手の稲垣は、太田市のクラブハウスの小さなロッカー室へ足を運んだ。部屋の明かりをつけず、ひそかに経緯を語った。

「考えました。行ってレベルアップできるのか、と。結局、行った方がいいと思ったから行くことになったんですけど」

 15年秋には、4年に1度のワールドカップを控える。大一番でのメンバー入りを目指すなか、2つの選択肢をてんびんにかける。2月からシーズンに突入しているオーストラリアのクラブで出場機会を探るか。春からの日本代表合宿で首脳陣に直接的なアピールを重ねるか。ディーンズ監督の言葉で、心を、決めた。

「扉を開けるチャンス。どう選択しても悪くない。ただ、僕は長年、いろいろな選手を見てきたけど、ガッキー(稲垣の愛称)はひとつの扉を開けたら次へ、次へと扉を開けていくと思う」

1/2ページ

著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント