内山高志「1日1日強くなることが大事」=V9王者がボクシングに真摯な理由
KO以上に圧倒的な結末だったV9
ペレスの堅いガードの間を突き通す左ジャブで圧力をかけ続けた。長期間、拳を休ませたおかげで、近年にないくらい状態の良かった右も有効に使った。正面から打ち込む右ストレートはもちろん、一歩間違えれば、頭の固い部分を打つことになるため、「怖くて、最近はなかなか打てなかった」というガードの外側からテンプルを叩く右フック、ガードの真下から突き上げる右アッパー。ペレスのガードが上がれば、すかさず強烈な左ボディをねじ込む。多彩なアングルから揺さぶり、ダメージを与え、ペレスを次第に沈黙させた。
シドニー五輪出場経験があり、豊富なアマキャリアを持つペレスだが、ケガやプロモーターとの確執で何度もブランクをつくった。プロ転向から14年、内山と同じ35歳で掴んだ世界初挑戦。ラストチャンスの覚悟もあったはずのペレスをギブアップさせたのだから、ある意味、KO以上に圧倒的な結末だ。
意識的に封じているKO宣言
破格の強打の持ち主ながら、内山は試合前、リップサービスでもKO宣言はしない。「内心では絶対KOしてやると思ってますよ。実際、相手を倒すための練習をしてますから」と笑う内山が最も警戒するのは、口に出すことで心に隙が生じてしまうことだ。まして世界王者ともなれば、メディアは色めき立ち、ファンは期待し、ひいては周囲の浮ついた空気が自身に影響しかねないことも知っているのだ。
「僕の場合、ちょっとでも欲が出るとダメになっちゃいますから」
意識的にKO宣言を封じて、油断を忍び込ませない精神を構築し、危なげのないボクシングを体現することで内山は勝ち続けてきた。
3年半悩まされた右拳のケガ
裏を返せば、11年1月、現WBC世界スーパーフェザー級王者の三浦隆司(帝拳)を挑戦者に迎えた3度目の防衛戦からは、大きなハンデを背負って、戦ってきたということでもある。
「こんな状態では負けるんじゃないかという不安もありましたよ。その恐怖があるから、もっとフィジカルを鍛えよう、もっと左を磨こうとか、できることを考えましたね。実はサウスポーの練習もしてたんで。右がどうしようもなくなったときの最終手段で、左ストレートをガツンと打てるように」
足りないのは見合った舞台だけ
「成長した三浦くんともう一度やるのも楽しみだし、チャンスがあれば、他の団体のベルトもほしいですよ。もちろん、ラスベガスで試合をしたい気持ちもありますよね」
内山自身、そう希望を語るが、内山はやはり内山である。自分ではどうにもできないことに心とらわれ、一喜一憂するような愚を犯すことはない。
「今はとにかく毎日しっかり練習して、1日1日強くなることが大事ですね。真面目にやっていれば、チャンスは来ると信じているので」
ただひたすらにボクシングと真摯に向き合い続けてきた男だからこそ、近い将来、その価値を証明する大きな舞台が用意されてほしいと願うばかりだ。