「トップ5・錦織」全豪OPの軌跡=対戦相手の言葉が記す現在地

山口奈緒美

ボルテージを上げた錦織フィーバー

トップ5として挑んだ錦織の全豪OPは準々決勝でワウリンカに破れ幕を閉じた 【写真:ロイター/アフロ】

 地元メルボルンで発行されている『The Age』紙は、全豪オープン開催中は連日6〜8ページを割いて大会を報じる。開幕の2日前、錦織圭(日清食品/世界ランキング5位)はその新聞の1面を飾り、準々決勝で敗れると、翌日の同紙にはほとんど錦織の記述はなかった。ただ、錦織をストレートセットで破ったスタン・ワウリンカ(スイス/4位)を称えるために引き合いに出されていたくらいだ。
「ニシコリのプレーはスコアほど悪くはなかった。ただ、ニシコリの甘いショットをワウリンカは見逃さず、ニシコリのいいショットにはそれ以上のショットで返した」
 という具合に。

日本のみならず、世界のメディアから注目される存在となった錦織 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 この事実は、錦織に対する現在の一般的評価をよく表しているのかもしれない。新鮮さ、期待感、アジア人ということも含めてのプロフィールは、高揚感が膨らむ「大会前夜」の顔になってふさわしい。だが、準々決勝で負けることは驚きではないし、その内容が善戦であろうと一方的であろうと、負けて記事の主役扱いということにはならないのだろう。そこは、あえて名前を出す必要もないかもしれないが、ロジャー・フェデラー(スイス/2位)やラファエル・ナダル(スペイン/3位)とは違うところだ。

 それでも、寒い日本を飛び出した錦織フィーバーは南半球の夏と溶け合い、陽気なオージーたちも巻き込んでボルテージを上げていった。
 そんな中での錦織の戦いの軌跡を、対戦した選手の言葉を通してたどってみたい。

対戦相手の「飛ばし方」

1回戦の相手・元世界9位のアルマグロは「数年前よりもサーブは速くなった」と錦織の成長を認めた 【写真:ロイター/アフロ】

 1回戦の相手は、元世界9位のニコラス・アルマグロ(スペイン/69位)。6−4、7(7)−6(1)、6−2のストレート勝ちだったが、試合後のアルマグロは上機嫌だった。
「長い間休んでいて、復帰したばかりにしてはいい試合ができたよ。体調はパーフェクトさ(笑)。(錦織はサーブが弱点と言われていたが)サーブが悪くてはここまでこれない。数年前よりもサーブは速くなったと思う」

 昨年の全仏オープンの1回戦を途中棄権する原因となった足のケガで、その後手術を経て8カ月近くツアーを離れていたアルマグロは、前の週にツアー復帰したばかりで、そこでも1回戦で敗れていた。

3回戦の相手・ジョンソンにも成長した錦織のサーブが効果的に決まった 【写真:ロイター/アフロ】

 もともと人を食ったようなところがあるが、あの上機嫌が意味していたのは、錦織に勝つことなど最初から考えていなかったということだ。久しぶりの大舞台に戻って来られただけでうれしくて、相手が世界5位になった錦織なら「当たって砕けろ」。ただ打ちまくればいい――。それが、立ち上がりからの強烈なハードヒットとリスキーな攻めだった。
 錦織が「1回戦としてはタフさランキングでトップ」という表現をしたのは、「8カ月プレーしていなかったが元世界9位の実力者だから」ではなくむしろ、「元世界9位の実力者が8カ月もプレーしていなかったから」だったのかもしれない。ラリーで押されがちな前半を切り抜け、第2セットのタイブレークからは流れをつかんだ。

「当たって砕けろ」精神は、2回戦のイバン・ドディグ(クロアチア/86位)、3回戦のスティーブ・ジョンソン(米国/38位)にも言えただろう。そういう「飛ばし方」だった。

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著者プロフィール

1969年、和歌山県生まれ。ベースボール・マガジン社『テニスマガジン』編集部を経てフリーランスに。1999年より全グランドスラムの取材を敢行し、スポーツ系雑誌やウェブサイトに大会レポートやコラムを執筆。大阪在住。

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