「トップ5・錦織」全豪OPの軌跡=対戦相手の言葉が記す現在地
フェレールの忠告
大会期間中も、チャン・コーチ(右)やボッティーニ・コーチと戦略を練った錦織 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
しかし、錦織にとって新たなチャレンジとなったグランドスラムの1週目は、想像以上にタフだったのかもしれない。「大会の始めの方で、どうやってメンタルを強く持ってやれるかというのが、これからの課題になる」と話した。
4回戦で対戦した元世界3位のフェレールは「(錦織は)準決勝にいくチャンスはあるだろうけど、どうなるかわからない」と忠告 【写真:ロイター/アフロ】
「わからないよ。だってまだジョコビッチもナダルもいるじゃないか。次の相手もワウリンカだ。準決勝にいくチャンスはあるだろうけど、どうなるかわからない」
錦織よりも小さな体でツアーのトップを長年戦ってきた32歳らしい慎重さとプライド、見識が表れていた。この段階ですでにフェデラーはドローから消えていたとはいえ、まだノバック・ジョコビッチ(セルビア/1位)もナダルもいた。質問したのが日本人記者だとわかっていても、安易に「チャンスは十分だ」などと言わない、言えない……それがビッグ3をはじめとした偉大なチャンピオンたちの強さを知っている、全仏オープン・ファイナリストの忠告だった。そんなに甘いものではないんだよ、と。
錦織のピークはこれから
準々決勝で対戦したワウリンカに「まだ震えているよ」と試合後に言わせたものの、ストレート負けを喫した 【写真:ロイター/アフロ】
「僕にとってはとても大事な試合だった。準備が大切だったよ。彼と打ち合うためには自分と戦う必要があった。本当にアグレッシブなプレーをしないといけなかった。ケイに先に攻めさせてはいけなかった」
全米オープンの準々決勝で錦織に敗れたあの一戦は、ワウリンカの記憶に深く刻まれていたのだろう。早いタイミングでボールをとらえて攻撃してくる錦織に、いったんラリーの主導権を握らせてしまえば、自分の時間は奪われてますます追い込まれていく。そのことを知っていたから、彼は高度な攻撃の手を一瞬も緩めなかった。ワウリンカが入念な準備を施し、相当の覚悟を持ってこの試合に臨んでいたことがわかる。1週目の相手と違う点は、それをほとんど最後までやり続ける力があるということだ。
全豪OPでは準々決勝で敗れたものの、錦織のピークはこれから 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
ところで、ここまで名前が出てきた選手だけでもグランドスラムの準優勝が最高成績という選手がいかに多いことか。フェレール、ノーマン、セーデリング……。錦織も今はそのグループに入る。ただ絶対的に違う点は、錦織のピークはこれからというところだ。
よく「錦織選手は優勝できますか?」と聞かれる。答えはもちろん「できる」だ。プレッシャーのかかる1週目の突破のし方、2週目からのギアの上げ方……錦織にはまだ勝ち進むムードが漂っていた。しかし同時に、月並みな表現ではあるが、頂点までの道がいかに険しいかを一戦一戦に見た2015年最初のグランドスラムでもあった。