小平奈緒、新天地で求める新たな刺激 ソチでの経験を糧にオランダで成長中

折山淑美

ベストを尽くしても届かなかった

バンクーバー五輪からの4年間、小平奈緒はソチ五輪に向けて、突っ走った。ソチを終え、1年後の今の心境を語る 【スポーツナビ】

 2010年のバンクーバー五輪では、チームパシュートで銀メダルを獲得しながらも、個人500メートルで12位、1000メートルと1500メートルで5位に終わった小平奈緒(相澤病院)。昨年のソチ五輪は、そのバンクーバーの直後から突っ走り続けて臨んだ2度目の五輪だった。

 仕上がりは良く、ソチ入り後も順調。開会式2日前のタイムトライアルでは、同走だったバンクーバー五輪2位のジェニー・ウォルフ(ドイツ)を0秒57突き放し、低地リンク自己最高の37秒93と、全選手中のトップタイムを出していた。その中で臨んだ本戦だった。

――(昨年2月)11日の500メートルの1本目は中間製氷前の組だった張虹(中国)がいきなり37秒58を出し、直前の組でもオルガ・ファトクリナ(ロシア)が37秒57を出したりで、少し力んでいたように見えました。あのレースで37秒77を出した同走のマーゴット・ブア(オランダ)に先着しておけば、2本目は37秒72まで出せただけに銅メダルのチャンスはありましたね。

 そうですね。いつもそうなんですけど、自分が「行ける!」と思った時はうまくいくことが少なくて、「どうなるか分からないけどやってみるか」くらいでいくと良い場合が多くて(苦笑)。

(ソチ五輪は)本当にレベルの高い試合の中で、自分がベストを尽くしても届かなかったので、足りなかったのは何かと結構考えました。

――昨シーズン、500メートルは良かったですが、1000メートルや1500メートルはかなり世界との差がついてしまいました。

 シーズン前半は、エムウェーブ(長野)で自己ベストを出すことができて良い感じでしたが、レースを重ねるごとに考えてしまったというか。レース展開を知りすぎていたことで、自分の滑りを決めつけていたのかなと、今は思いますね。

 昨シーズン使った硬いブレードとの相性は良かっただろうけど、ロックや曲げの関係や、力の使い方のメリハリのなさで氷に張りつきすぎて、うまくコントロール仕切れなかったのが原因かなとも思います。

――それはいつ頃気がつきましたか?

 終わった後で(コーチの)結城(匡啓)先生とそんな話をしていて、オランダへ行って道具をいじってもらった時にもそう言われたので……。だからその時から、次に試したいことのリストに入れていました。

発想の転換が成長の鍵に

ソチ五輪の結果は500メートルで5位、1000メートルで13位。オランダ旋風が巻き起こり、進化を見せ付けられた大会となった 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

――昨年4月からオランダに拠点を移しています。それはソチでオランダの進化のすごさを見せつけられて、発想を変えなければいけないと考えたからですか?

 以前から海外でスケートをやりたいという想いを持っていて、合流させていただいているオランダのチームとは、五輪前から話をしていました。五輪でまさかオランダ勢があそこまですごいことになるとは思っていませんでした。

 また私のワールドカップデビューがオランダで、その時の観客の多さに衝撃を受けて、将来引退するなら、たくさんの観客がいるオランダで、オランダ語でスピーチをして、スケートが好きな人たちの記憶に残りたいというのもありましたので(笑)。

――ソチではオランダの進化した姿を見せられて、イメージも変わりましたか?

 オランダへ行ってから感じたことですが、オランダ人に限らず、世界のトップは1000メートルや1500メートル、3000メートルまでラスト1周は長距離的ではなく、かなり短距離的になっているのかなと思います。そう考えると私の500メートルは、残り400メートルのラップで考えると上の方にいるので、それを1000メートルで出せていないのがちょっともどかしいところで……。

 私がバンクーバー五輪1500メートルで5位に入れた時はラップを維持する感じでしたが、それだとやっぱりメダルには届きませんでした。けれども、意外に自分が持っているものの中に勝てる要素があるのかなとも、改めて思いました。

――500メートルの長所を長い距離で活かすような発想の転換をしないとと考えているのですか?

 自分でそれを体現できた時に「あ、こうできるんだ」と体で分かって進化していくのだと思います。だから今は、遊びのような感覚で自由に滑ってみようかなと思うんです。自分の感覚でスピードを上げてみたり、カーブだけ頑張ってみるとか。

――探究心や闘争心をむき出しにして?

 好奇心というか、そこにどっぷり飛び込めていけたらいいなと。そうすれば新しい世界も広がるのかなと思います。

頭にも体にも優しい練習

ソチ五輪後にオランダを拠点とし強化を進める小平 【写真:ロイター/アフロ】

――オランダと日本における練習での違いはどんなところですか?

 必要最低限の中で集中してやるのがオランダ人ですね。「この一本を逃したらあとはないんだよ」というような感じで、本当に集中していないとかなり厳しいです。

 明日頑張ればいいのではなくて、頑張る時には徹底的に頑張らなければいけない。逆に今日は明日の練習に集中するための練習だからやりすぎてはいけないとか、メリハリがしっかりしているんです。だから私が「長距離選手と一緒にもう一本やりたい」と言った時に、コーチに「Genoeg(十分)」と何回も言われて……。私は結構練習が好きなので沢山やりたくなってしまうけど、コントロールが必要なんですね。ウエイトトレーニングでも日本人は、少しフォームが乱れても数値を気にして無理に挙げようとするけど、オランダでは動きの正確さを重視して少し重量を落とせと言われるんです。

 それにあまり人と自分を比べないですね。個人の練習強度を上げられた時やタイムを伸ばせた時は、お互いに「今日の練習は良かったね」と言い合ったりして。一番だったからすごいのではなく、自己ベストを褒め合うからお互いに高めていけるというのはあると思います。

――だから本番で、120%、130%の力が出せると?

 氷上練習でも全力で滑ることはないんです。全力で滑るのは試合でしか試せない。練習ではテクニックや心肺機能を高めるメニューばかりで。夏も自転車がほとんどで、あとはローラースケートとジャンプ練習とウエイトトレーニング。これでいいのかと不安でしょうがなかったですね。でもシーズンが始まる10月には開き直って「自分で決めた道だからどんな結果でも正解だよね」と思えるようになりました(笑)。

――それでもシーズン序盤は結果が出ていましたね。

 多分疲れていなかったんでしょうね。あまり考えないでやってきたので頭も疲れていなかった。最初にオランダへ行った時に思ったのは、体にも優しいし脳にも優しいトレーニングだなということでした。集中力が持続する時間内で練習が終わります。日本では岡崎朋美さんや清水宏保さんの限界を超えるトレーニングの姿を見ていたので、そうしなければ超えられないと思っていましたが、夏の練習で疲れ切ったらダメだなとも思いました。
 大学の時やソチ五輪まではそういう練習をしてきましたが、私にとってはそれもプラスだったと思っています。そういう貯金も今に繋がっていると思います。今シーズンは、頭にも体にも優しい練習だったのに、実際に数値を図ってみると体力が上がっているということを体験できたので、それは今季の大きな収穫でした。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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