小平奈緒、新天地で求める新たな刺激 ソチでの経験を糧にオランダで成長中

折山淑美

良い意味での“適当さ”

オランダに行って「いい意味での適当さが身についた」と話す 【スポーツナビ】

 指導を受けるマリアンヌ・ティメルコーチには、「ナオは心臓が強いから前半から飛ばしても最後まで持つ」と言われているという。平常時で1分間の心拍数が37という長所を活かしきれていないのも、まだ自分が作ったレースプランに縛られているからだろうと小平は苦笑する。

――技術面以外でオランダに行って変化した点はありますか?

 オランダへ行って思ったのは、日本人が誰もいないチームに入れたのが良かったということです。すべて自分で何とかしなくてはいけないから、真面目すぎたら気持ちも持たない。時々みんなとふざけ合ったりしながら、面白いオランダ語も覚えてわいわい話しながら……。良い意味での適当さも身につきました。

――何事もこれまでより柔らかく受け止めて、柔らかく流せる感じになったと?

 以前は「頑張らなくちゃ!」という感じでしたが、今は「なんくるないさ」じゃないですけど、そういう心構えで少し待てば良くなるよという感じになれました。本当に良い意味で冒険ができていますが、野放しでないのも良いと思いますね。

 日本にいる結城先生とも頻繁に連絡をとっていますが、私が「こういうことをやった」と話すと先生も「それは面白そうだな」と反応してくれます。それで遊び心のようなものも持てて、変幻自在というか臨機応変に対応できていると思います。試合でコンディションが合わなかった時でも、そういう心構えだと自分でコントロールできる余裕も持てるので。

――そういう環境だと想像力も必要だろうけど、自分で選んで手に入れたものは貴重な財産にもなりますね。

 与えられるのではなく、自分からやらないと身につかないなと身に沁みて感じました。特に語学は、その環境にいるだけでは身につかないなと。今は、チームメイトとはオランダ語で話せるようになりましたが、テレビ局にインタビューされると構えてしまって出てこないんです。そこは後半戦で挽回しようと思いますね。早口言葉でも何でもいいから話そうと(笑)。

今が新たな成長期

今はまだ平昌五輪については考えていない。しかし、スケートを楽しむ気持ちをもう一度思い出した先に、五輪での活躍が見えてくる 【写真:Lee Jae-Won/アフロ】

――そんなに楽しそうにやっていると、2018年の平昌五輪はどう意識していますか?

 今は自分を進化させたいという気持ちの方が強いですね。ゴールが見えちゃうとここまででいいかなと思っちゃうので、まだ自由に羽ばたかせてもらいたいなというのがあります。バンクーバーのあとは、1000メートルと1500メートルで戦えるかもしれないという自信をつけて帰って来たので、次の年も「ここを逃すまい」という感じでアクセル全開でした。でも今はあの時より余裕がある感じで、せっかくオランダへ来れるチャンスをもらったんだからもっと違う可能性を探しに行きたい、という感じです。

――バンクーバーが終わってからは直ぐに「次へ!」という感じだったし、結城先生も500メートルで世界と戦うにはもっと筋力を高めなくてはいけないと考え、食事内容の見直しなどにも取り組んだそうですね。

 あの時はもっと結果を出していきたいというより、今からソチのために体を変えていきたいっていう感じでしたね。ソチが終わった後は少し余裕を持つことができました。バンクーバーが終わってからは、「これと、これと、これをやりたい」みたいな感じで、そこに向かっていました。

――多分バンクーバーの後って、今感じているような好奇心も、自分の中では制限しているように見えたくらいに一直線でした。

 でもそれは信じていたものがあったから、そうしていたと思うんです。かといって今信じているものがないっていうわけではなくて。せっかくこうやってオランダへ行けるチャンスをいただけているので。

――バンクーバーの後は国内が拠点だったからメディアと接することも多かったと思うけど、今はメディアがいないところで、ある意味自分と向き合えていると思いますが、そういう中で得られるものというのは全然違いますか?

 日本はメディアの活動がすごく盛んなので、自分では流されないぞって思っていても暗示のようにそっちに向けられちゃうっていうのはあると思います。でも他の国にはないところでもあるんですよ。米国だといろいろな競技で金メダリストがいるので全然報道陣も来ないこともあります。それも寂しいことなので。

 ただ今年は、五輪の翌シーズンというのもあるので、日本でもメディアの前では自由にしゃべっていますね。五輪の前は「これをしゃべったら縛られそうだな」と思って口にしないこともありましたから。

――オランダの生活も楽しんでいる?

 そうですね、オランダでの生活もいろいろ体験しながら学んでいます。何か人間が変わっていく感じですね。スケート選手としては結構変わることは多かったですけど、人間が変わる機会はなかなか得られないですから。

――今が第2次成長期?

 第2次ですかね(笑)。3次くらいじゃないですか? でもそうしたらその間に反抗期とかないと(笑)。もう日本に帰らないとか。

――向こうで結婚してしまったらみんな驚くよね。

 まず、両親がびっくりしちゃいますよ(笑)。平昌もオランダ代表を狙って、「この激戦の中で戦いたい」とか……(笑)。でも、そうまでなったらたいしたものですけどね。
 ティメルコーチには「4月に来た時よりも表情が豊かになった」と言われるといって笑顔をみせる小平。オランダへ行って、同じようにスケートを突き詰める道にも、楽しく、余裕を持ちながら突き詰める方法もあることを知ったのだろう。スケートが文化として定着しているオランダでは、観客の興奮や声援も記録更新の後押しになり、レベルアップの大きな要因になっていることも。

 まだいつまでオランダを拠点にするかも決めていないという彼女は今、新たな刺激のすべてを自分の体や頭で受け止めて、自分の肥やしにしようとしているだけだ。その一歩一歩は確実に、平昌へと続いていく。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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