錦織が全豪OPで越えるべきハードル ライバルは早い仕掛けで応戦か

坂井利彰

19日から全豪オープンが開幕。坂井氏に錦織を中心とした観戦のポイントを聞いた 【写真:Action Images/アフロ】

 今シーズンの本格的な幕開けを告げる全豪オープン。いよいよ間近に迫った2015シーズン最初のグランドスラムの注目点はやはり錦織圭(日清食品)。世界的にも注目を集めるポスト・ビッグ4、対ビッグ4の一番手に挙げられる錦織はテニス界の歴史を変えることができるのか? 元プロテニス選手で現在、日本プロテニス協会理事、慶應義塾大庭球部監督を務める坂井利彰氏に、新たな時代に突入したテニスを楽しく見るための観戦方法、テレビ観戦でもわかるプレーの奥深さ、ポイントを聞いた。

“ポストビッグ4”の一番手となった錦織

 錦織選手が大活躍をみせた昨年のATPツアー・ファイナルのあとのショートブレイクを挟んで、テニス界の2015年シーズンはすでに始動しています。シーズン最初のグランドスラムとなるのが、19日から行われる全豪オープンです。昨シーズンは日本だけでなく世界中が錦織選手の活躍に沸き、長く続いたロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバック・ジョコビッチ(セルビア)、アンディ・マレー(英国)が牛耳るビッグ4時代の終わりか? という話題が多くのメディアで取り上げられました。今シーズンは錦織選手を中心とした中堅世代や、さらに若い新世代の台頭によって“真の世代交代”が成るかどうかにも注目が集まります。

 今年1月発売の米国のニュース雑誌『TIME』誌の表紙にも取り上げられた錦織は、世界のテニスシーンの中でも注目される存在でした。世界のトップ選手たちが繰り出す破壊力満点のサービスを難なく打ち返すリターナーとしての資質、精密にコントロールされた正確なストロークに、コート全域をカバーするクイックネスとアジリティ(機敏さ)。世界と戦うのに必要十分な能力と技術を備えた上で、一発でストローク戦にケリをつけられる強烈なダウンザラインショットをウイニングショットに持つ錦織選手は、世界中から“打倒ビッグ4”の期待を込められている選手でもありました。そして昨シーズンの活躍によって名実ともに“ポストビッグ4”の一番手に挙げられる存在になったのです。

 日本人として錦織選手の活躍は非常にうれしいことですが、その活躍が世界のテニスのメインストリーム、対ビッグ4というシーズンを通した主題に関わっているということは、とても重要なことです。前哨戦でナダルとジョコビッチが早々に姿を消すというこれまでなかった事態も起きていて、ビッグ4に挑む時代から、どうやって優勝するかを多くの選手が考える時代になってきたことは紛れもない事実です。

 2015年シーズンを占う存在でもある全豪オープンを、こうした背景を理解した上で観戦するとまた違った視点で見ることができるのではないでしょうか。

対戦相手のタイプに応じた駆け引きに注目

 テニスのプレー面から見ても錦織選手が世界に与える影響は小さくありません。現代のテニスはコートを立体的にとらえ、ボールの縦と横の変化を巧みにコントロールして空間を目いっぱい使い切る“3Dテニス”が主流ですが、こうしたテニスを確立し、その中で圧倒的な強さを見せていたビッグ4に対抗するためには、プレー内容に変化をつける必要がありました。錦織選手が昨シーズン、ブレイクスルーを果たした要因の一つが、3Dテニスに“間”や“時間”という概念を持ち込み、プレーに生かしたことが挙げられます。

 スピードボールが行き交うラリーはテニスの醍醐味の一つですが、ボールの軌道に注目すると、さらに高いレベルで駆け引きが行われていることがわかります。ドライブ回転のかかったボールが急激に落ちてバウンド後は高く跳ね上がったり、スライス回転で飛んできたボールがこれまでの挙動に反して弾まなかったり。こうした駆け引きが見えるようになるとさらにテニスの奥深さがわかるのですが、錦織選手が見せているのはその先の時間のコントロールです。

 ビッグサーバーに対する錦織選手は、たとえ豪速球サービスに差し込まれてもコースを厳選して打ち返し、時にリターンエースを奪ってしまいます。特にセカンドサービスでは、相手がサービス直後に体勢を崩すことを見越して、勇気を持って一歩前に出る。相手は思っていたよりも早く戻ってきたボールに対応が遅れ、不完全な状態でストロークに入ることになります。こうした“遅れ”は高度な駆け引きが行われるストローク戦では、致命傷になりかねません。

 サービスが武器のビッグサーバー、打ち合いに勝機を見出すストローカーなど、錦織選手は全豪オープンでもさまざまなタイプの選手と対戦すると思いますが、ぜひこうした駆け引きにも注目して一打一打を見てみてください。

 トップクラスの選手たちは誰もが「相手の時間を奪う」という感覚を持って次の一手を考えているのですが、それを正確にコントロールできる技術とプレーの構成力の高さ、インテリジェンスのレベルが高いことが錦織選手の強さの秘密なのです。

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著者プロフィール

慶應義塾大学専任講師。1974年生まれ、慶應義塾大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院政策メディア研究科後期博士課程修了。高校時代はU18日本代表、高校日本代表に選出。大学時代は全日本学生シングルス優勝、ユニバーシアード日本代表、ナショナルチームメンバーに選出。プロ転向後は世界ツアーを転戦し、全豪オープンシングルス出場。世界ランキング最高468位、日本ランキング最高7位(ともにシングルス)。引退後は慶應義塾大学庭球部監督に就任。ATP(世界男子プロテニス協会)公認プロフェッショナルコース修了、ATP公認プロフェッショナルコーチ、日本テニス協会公認S級エリートコーチ、日本プロテニス協会理事を務める

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