錦織が全豪OPで越えるべきハードル ライバルは早い仕掛けで応戦か
19日から全豪オープンが開幕。坂井氏に錦織を中心とした観戦のポイントを聞いた 【写真:Action Images/アフロ】
“ポストビッグ4”の一番手となった錦織
今年1月発売の米国のニュース雑誌『TIME』誌の表紙にも取り上げられた錦織は、世界のテニスシーンの中でも注目される存在でした。世界のトップ選手たちが繰り出す破壊力満点のサービスを難なく打ち返すリターナーとしての資質、精密にコントロールされた正確なストロークに、コート全域をカバーするクイックネスとアジリティ(機敏さ)。世界と戦うのに必要十分な能力と技術を備えた上で、一発でストローク戦にケリをつけられる強烈なダウンザラインショットをウイニングショットに持つ錦織選手は、世界中から“打倒ビッグ4”の期待を込められている選手でもありました。そして昨シーズンの活躍によって名実ともに“ポストビッグ4”の一番手に挙げられる存在になったのです。
日本人として錦織選手の活躍は非常にうれしいことですが、その活躍が世界のテニスのメインストリーム、対ビッグ4というシーズンを通した主題に関わっているということは、とても重要なことです。前哨戦でナダルとジョコビッチが早々に姿を消すというこれまでなかった事態も起きていて、ビッグ4に挑む時代から、どうやって優勝するかを多くの選手が考える時代になってきたことは紛れもない事実です。
2015年シーズンを占う存在でもある全豪オープンを、こうした背景を理解した上で観戦するとまた違った視点で見ることができるのではないでしょうか。
対戦相手のタイプに応じた駆け引きに注目
スピードボールが行き交うラリーはテニスの醍醐味の一つですが、ボールの軌道に注目すると、さらに高いレベルで駆け引きが行われていることがわかります。ドライブ回転のかかったボールが急激に落ちてバウンド後は高く跳ね上がったり、スライス回転で飛んできたボールがこれまでの挙動に反して弾まなかったり。こうした駆け引きが見えるようになるとさらにテニスの奥深さがわかるのですが、錦織選手が見せているのはその先の時間のコントロールです。
ビッグサーバーに対する錦織選手は、たとえ豪速球サービスに差し込まれてもコースを厳選して打ち返し、時にリターンエースを奪ってしまいます。特にセカンドサービスでは、相手がサービス直後に体勢を崩すことを見越して、勇気を持って一歩前に出る。相手は思っていたよりも早く戻ってきたボールに対応が遅れ、不完全な状態でストロークに入ることになります。こうした“遅れ”は高度な駆け引きが行われるストローク戦では、致命傷になりかねません。
サービスが武器のビッグサーバー、打ち合いに勝機を見出すストローカーなど、錦織選手は全豪オープンでもさまざまなタイプの選手と対戦すると思いますが、ぜひこうした駆け引きにも注目して一打一打を見てみてください。
トップクラスの選手たちは誰もが「相手の時間を奪う」という感覚を持って次の一手を考えているのですが、それを正確にコントロールできる技術とプレーの構成力の高さ、インテリジェンスのレベルが高いことが錦織選手の強さの秘密なのです。