錦織が全豪OPで越えるべきハードル ライバルは早い仕掛けで応戦か

坂井利彰

ライバルが講じる錦織対策

ブリスベン国際では先手を打つ戦術で錦織を制したラオニッチ 【写真:ロイター/アフロ】

 錦織選手を軸に話を進めてもテニス界全体のトレンドの話とズレがないというのが話をしていて不思議な感覚なのですが、昨年大きな階段を上り、ステップアップした錦織選手に対してはライバルたちのマークも厳しくなっています。

 全豪の前哨戦とも言えるブリスベン国際では、196センチのビッグサーバー、ミロシュ・ラオニッチ(カナダ)がサービスを武器に「早めに仕掛ける」戦術で錦織選手に勝利しました。ラオニッチがサービスの勢いそのままに攻撃的なショットを仕掛けるタイミングを意図的に早めているプレーを見て、「だいぶ研究されているな」と感じました。サービスが入ればポイント、打ち合えば不利というデータを見越して、サービスで足を止めてそのまま早めにポイントを取りに行くやり方は、ストロークで錦織選手に主導権を握らせないために練られた作戦でした。

 ツアー・ファイナルでのジョコビッチも、錦織選手に敗れた全米では王者然と“受け”に回っていたのに対して、自分から攻めに転じるタイミングを1テンポ早めていました。全豪でもライバルたちはこうした“錦織対策”を講じてくると思いますが、これをきっかけにテニス自体のテンポが早まり、さらに攻撃的なプレースタイルになっていくという可能性もあって、いろいろな意味で錦織戦から目が離せません。

真夏の全豪では戦略・戦術の組み立てが鍵に

 今回の全豪オープンで錦織選手が優勝する可能性ですが、期待が高まる一方で乗り越えなければいけないハードルも多く存在します。南半球のオーストラリアは現在、真夏。前回大会では体調不良者もたくさん出ましたが、40度を超える暑さの中でファイナルまでたどり着き、その場で100パーセントの力を発揮するためには「4大大会で勝ち切る戦い方」をする必要があります。

 序盤戦は最少セットで勝ち抜く“省エネ”テニス。トップ選手の多くは前半戦を1時間半以内で勝ち切っています。涼しいナイトセッション、暑いデイセッションのどちらで戦うのかは運の要素もありますが、デイセッションは暑くても睡眠時間が十分に取れるというメリットもあり、チーム錦織のサポートも含めた戦略・戦術の組み立ても大きな影響を与えるはずです。

 こうしたノウハウ、勝ち方を蓄積していければ、錦織選手自身が目標とする世界ナンバー1に手が届く可能性は十分にあります。

 昨シーズンの活躍で錦織選手の評価はうなぎのぼりですが、次代のナンバー1候補となると、身体面、体力面を不安視する声もあり、錦織選手の名前を挙げる声は少数派なのが現状です。多くの人はマルチロールのタレント、23歳のグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)こそ、ビッグ4の真の後継と推すのですが、こうした声を覆して錦織選手がナンバー1にのぼりつめることができるかどうかは今回の全豪オープン、そしてその先に見える今シーズンの活躍いかんにかかっています。

 真夏のオーストラリアで繰り広げられる熱戦は、新時代を迎えたテニスの新たな一歩になる大会です。文字通り、熱くて激しい戦いが予想されます。今回は私も現地に視察予定ですが、いまやテニスのトレンドを作り出す側に回った錦織選手のプレーを通じて、新たな日本人選手の可能性、テニス界の変化を肌で感じてこようと思っています。

(構成・大塚一樹)

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著者プロフィール

慶應義塾大学専任講師。1974年生まれ、慶應義塾大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院政策メディア研究科後期博士課程修了。高校時代はU18日本代表、高校日本代表に選出。大学時代は全日本学生シングルス優勝、ユニバーシアード日本代表、ナショナルチームメンバーに選出。プロ転向後は世界ツアーを転戦し、全豪オープンシングルス出場。世界ランキング最高468位、日本ランキング最高7位(ともにシングルス)。引退後は慶應義塾大学庭球部監督に就任。ATP(世界男子プロテニス協会)公認プロフェッショナルコース修了、ATP公認プロフェッショナルコーチ、日本テニス協会公認S級エリートコーチ、日本プロテニス協会理事を務める

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