男子マラソン復活へ続く手探り 求められるナショナルチームの地位向上

折山淑美

メダル獲得への覚悟が必要

福岡国際マラソンでは9位に終わった宇賀地だが、ポテンシャルは高く今後の活躍が期待される 【写真は共同】

 かつて日本勢が強かった時には練習量を含めて参考になる選手がいたことが、次の世代の選手を育てる原動力になった。今の不振に陥っている流れを切り換えることができ、かつ他の選手の参考になるような選手が出てくるのが理想だ。

 だがそういう時が来るまでは、地道にタイムを縮めていくという考え方もある。宇賀地の場合も持っている能力は高いだけに、2時間10分50秒を出した今回の練習を見つめ直し、それをベースにしてあと2分縮めるためにはどこまで練習をすればよいのか、といった発想をしていく必要もあるのかもしれない。

「今後のマラソンの結果などを見て、15年3月にはナショナルチームの選手を入れ換える予定です。今年から取り組み始めた『暑さに対応できるか』などのデータも踏まえて選手を絞り込んでいく必要もあると思いますね。ただ東京五輪なども意識すれば、学生でも『東京五輪はマラソンでメダルを取るんだ』と覚悟をして、5000メートルや1万メートル、駅伝などをマラソンのための練習でやると思うような選手に出てきてほしいし、そんな選手をナショナルチームへ抜てきしたいという気持ちはありますね。僕らが現役のころは福岡に向けてマラソン練習をしている時期に、東京で国際大会の1万メートルがあっても、2日前に40キロ走をやってから移動してレースに出ていた。瀬古利彦(元DeNA総監督)も福岡を走って箱根駅伝も走るというのをやっていたけれど、そのくらいの覚悟がないとなかなかマラソンは狙えないと思います」

個の戦いではなく集団での戦いを

 トラックの走力が落ちたからマラソンをやるというのでは通用しない。マラソンの日本記録保持者である高岡寿成(現カネボウコーチ)は、30歳を過ぎてからマラソンに転向して成功したが、それはマラソンを走るための体力作りに長期的なスパンで取り組みながら、5000メートルや1万メートルを走っていたからだという。その意味でも学生のうちにハーフマラソンや30キロなどの実績を評価してナショナルチームへ引き上げ、「マラソンのためにはしっかり練習をしなければいけない」という意識を持たせる必要もあると、宗氏は言う。

「ナショナルチームを立ち上げたからといって、すぐにうまくいくとは思っていませんでした。今はまだ産みの苦しみの時期だとも思いますね。これで3月にメンバーの入れ替えをして、その中でまた新しい選手たちが流れを作ってという形でやっていれば、徐々に良くなっていくのではないかと思っています」

 そのためにも、今のナショナルチームの中で柱となり練習をキッチリこなしている今井が、この後のレースでしっかりと結果を出さなければいけないし、今回ダメだった中本も次のレースではしっかりと走ってナショナルチームに残らなければいけないと宗氏は語る。

 まずは選手たちがしっかりと結果を出して、ナショナルチームの一員であるというステータスを高めること。さらに他の選手たちもその存在を認めて、ナショナルチームの一員になるのを目指すような状況になること。それが今、日本男子マラソン復活のために求められることなのだろう。世界との大きな差を少しでも早く縮めるためには、個の戦いではなく集団での戦いが必要なのだ。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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