早大・布巻が挑む「理屈じゃない」戦い 大学ラグビー日本一を目指す

向風見也

手のひらで伝えたメッセージ

激しいプレーで早稲田大を引っ張る布巻峻介 【写真:アフロスポーツ】

 肩を、ぽん、とたたいた。あの頃と同じだった。

 2014年12月7日、東京は秩父宮ラグビー場で「早明戦」が始まる。今度で90回目となる、関東大学対抗戦きっての伝統の一戦だ。選手、整列。明治大、早稲田大の校歌が響く。両校のファンが順に立ち上がり、場内音声に合わせて声と腕を振る。公式入場者数は2万人超だった。

 音が止んだ頃だ。左隣の同級生の肩を、ぽん、と、布巻峻介がたたいた。切れ長の鋭い目、ポーカーフェイス、身長178センチ、体重97キロ前後という巨木の切り株の体型。大学日本一は歴代最多の15回という早大の今年度副将である。横に並んだ深津健吾は4年生で、最後の早明戦を前に感極まっていた。布巻は手のひらでメッセージを伝え、そのまま列を離れたのだ。

「一緒だよ」

 10代の頃と同じだった。東福岡高のゲームリーダーだった3年次、全国大会での先発出場を控えて身体を縮める下級生を見かけると、その肩を、ぽん、とたたいていたものだ。エースというよりボスだった。

「ゲームが落ち着かなくなったら、困ったら、僕に投げろ、と。ほかの人にそのプレッシャーを味わわせるくらいなら、僕の方が、ここの点は強いと思っているので」

早明戦で見せたビッグプレー

大学2年までセンターだった経験を生かし、攻撃でもチームにアクセントを与えている 【写真:アフロスポーツ】

 18対10とリードして迎えた、前半終了間際。自陣ゴール前で張り付けにされる。

「絶対、点をあげてはいけないポイント。僕のなかでは最大集中でした」

 タッチライン際から球を投げ入れるラインアウトを起点に、明大が塊となる。布巻はその脇に立ち、あちこちへ眼光を散らす。明大、左から右へパスをつなげる。布巻、その軌道をなぞるように駆ける。

「トライは取られたくなくて。最悪、3点は……と」

 ゴールラインを背に、点差を鑑みていた。トライとコンバージョンの7点を献上すれば、1点差に迫られハーフタイムを迎える。失点するにせよ、こちらの反則を受け、向こうが選ぶペナルティーゴールの3点に止めておきたい……。ルール上、問題が起こりうるプレーをしてでも、相手の勢いを止めることが先決だと思った。

「だから、こっちから仕掛けていく」

 明大のランナーが孤立して倒れかかる。密集の成立後にボールに触ると反則を取られがちだが、そのリスクを背負って、相手の持つ球に布巻が手をかけた。ターンオーバー。危機を脱した。日本代表のツアーから帰ってきて間もない藤田慶和の活躍もあり、11月未勝利の早大は37対24で久々の白星を挙げた。

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著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

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