早大・布巻が挑む「理屈じゃない」戦い 大学ラグビー日本一を目指す

向風見也

「今は純粋にラグビーができている」

激しいタックルや密集で相手ボールを奪うプレーが、相手チームにとって脅威になっている 【写真:アフロスポーツ】

 布巻はいわゆる「スター街道」を歩んでいた。東福岡高時代は、全国高校ラグビーを2連覇、2年の頃には7人制日本代表の練習生となった。華々しいキャリアを引っさげて入った早大では、しかし、いまだタイトルとは縁がない。ジャパンには1つ後輩の藤田に先に声がかかるなか、自身は度重なる怪我にも苦しんだ。今季序盤も前年度からの左膝痛の影響で、出場機会の限定を余儀なくされていた。

「高1、高2の時は浮かれたりもしてたんですけど、今は純粋にラグビーができている。強がらず、いつも通りというのを心がけています」

 ポジションは大学3年次、以前のセンターからフランカーに移った。ボールを持って多彩なプレーを仕掛ける位置から、肉弾戦で身体をねじ込む働き場への転向。将来のジャパン入りに向け自らの強みを最大限にアピールするには、それが必要だったのだ。

個人目標は。

「ジョージ・スミス……」

 世界クラスのフランカーにあっては身長180センチと小柄も、オーストラリア代表で111キャップ(国代表試合出場数)を獲得した狩人である。

「休んでいる暇がないというか、身体が止まっていても眼を動かしているし」

 要は、自らの資質を生かして国際的選手になりたいのだ。今は「リアクションスピード」などの課題克服にいそしんでいる。

厳しいぶつかり合いのなかでも全体を見渡す

身長178センチと大きくはないが、接点での強さが持ち味 【写真:アフロスポーツ】

「余裕」

 これを布巻は、己の是としている。

 2010年春、高校3年春の選抜大会決勝で大阪朝高を下した直後、取材エリアで記者に声をかけられた。当時、話題だった「高校授業料無償化・就学支援金支給制度の対象に朝鮮学校が含まれない問題」について聞かれる。

 一般論として、直前までスポーツをしていた高校生なら戸惑う場面だろう。ただ布巻は、「詳しいことはわかりませんが、グラウンドに立ったら同じラガーマンとして正々堂々と戦いたいと思います」と落ち着いた口調で言い切り、「ありがとうございました」と歩き去った。

 大学で新たなポジションに挑み始めた折も、「余裕を持ちたい。余裕を持てば、もっといいプレーができる」と話していた。厳しいぶつかり合いの際も全体を見渡す「余裕」が得られるよう、そのぶつかり合いを制し得る身体と技を磨く。

 かような論理構造のもと生きているから、早明戦でも仲間の変化を察知し、ターニングポイントを見極め、各所ですべきことを客観的に精査できるのである。

「これからは男としてもう負けられない」

「これからは男としてもう負けられない」と決意を語る 【写真:アフロスポーツ】

 いまの日本代表のフランカー陣には、190センチ、100キロ級の外国出身選手が並ぶ。早明戦を見た日本代表のエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)も、「このなかに可能性のある選手はいる。ただ、今のままで南アフリカ(世界2位。来年のワールドカップで対戦)と試合をしてどれだけやれるかは、想像すら……」。故障がちの布巻が、大型選手が起用される潮流を絶つのは、現状では難しいかもしれない。

 大学選手権優勝に向けても、茨の道が続く。最大の好敵手の帝京大は快調な仕上がり。全勝で対抗戦優勝を果たし、6連覇へ視界良好といった趣だ。

 かつては各所で格上げされる感のあった布巻は、日本ラグビー界の海で逆境に立たされている。

 しかし――。チームが苦しんでいた11月下旬、こう言い切ったものだ。

「単純に、これからは男としてもう負けられない。理屈じゃない。ラグビーでは技術も大事だけど、僕は、気合いで負けたら出せるものも出せない。それでは勝負として、面白くない」

 温かみと落ち着きと勝負勘を、日本ラグビー有数の個性として世界に提出したい。

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著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

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