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技術面から見る錦織圭の強さの秘密
もはや常識となったテニスの新潮流とは?
錦織の強さの秘密を、元プロテニス選手の坂井利彰氏が技術面から解説した
錦織の強さの秘密を、元プロテニス選手の坂井利彰氏が技術面から解説した【Getty Images】

 世界最強の選手が集うATPツアー・ファイナルに錦織圭(日清食品)が初出場、しかも、世界のトッププレーヤーたちを向こうに回して準決勝進出と快進撃を続けた。錦織はなぜ世界と互角に戦えるようになったのか? その強さの秘密は何なのか? 今回は主に技術面から、世界のテニスのトレンド、世界の強豪が駆使している戦略・戦術をベースに、錦織の強さの秘密を元プロテニス選手で現在、日本プロテニス協会理事、慶應義塾大学庭球部監督を務める坂井利彰氏に聞いた。

立体的テニスを駆使するストローカーが全盛

 錦織選手の快進撃によって、再び日本でもテニス熱、テニスへの関心が高まっています。私も世界のテニスについてお話しする機会をいただくようになったのですが、錦織選手の活躍を喜ぶ人が多い一方で、ロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバック・ジョコビッチ(セルビア)、アンディ・マレー(英国)のいわゆる“ビッグ4”や、錦織選手と全米オープン決勝を争ったマリン・チリッチ(クロアチア)、楽天ジャパンオープンでの決勝の相手、ミロシュ・ラオニッチ(カナダ)ら錦織選手のライバルたちのテニスに興味を抱く人たちも増えていることに驚いています。


 彼らはどんなテニスをするのか? 世界のテニスの潮流、現在地はどんなものなのか? そうした質問を受ける機会が増えているのですが、こうした“世界のテニス”に日本の人たちが目を向けることで、錦織選手の勝利の価値や、ATPツアーを戦う選手たちの本当の凄さが伝わるのではないかと思っています。


 現在のテニス界は強烈なトップスピンをかけた“エッグボール”を使ってベースラインから攻撃するストローカーが有利な時代に移り変わっています。従来のディフェンシブなベースラインプレーヤーではなく、コート後方から攻撃的なショットを連発するオフェンシブストローカーと言えば、エッグボールを自在に操るクレーコートの覇者・ナダルが筆頭ですが、フェデラーにしてもジョコビッチにしても、トップ選手はみな、ストロークプレーからの組み立てに長けていて、エッグボールを中心としたスピン量の多いショットを打つ技術は必須と言ってもいいでしょう。これは、単純なスピードやパワーで圧倒する平面的なテニスが限界を迎え、コートの幅や奥行きを立体的に捉え、高さや深さを余すことなく使った3Dテニスが全盛になったからだとも言えます。


 ネットすれすれを狙って低いボールを打ち返していた旧来のテニスとは違い、エッグボールはネットの高いところを通過して相手コート深くに突き刺さります。現代テニスでは球足の速さだけでなく、バウンド後のボールの変化も重要です。ナダルの放つ強烈なエッグボールはその名のとおり、卵を半分にしたような軌道で急激に落ち、高く跳ね上がります。こうしたボールは見た目のスピード以上に速く感じられ、差し込まれて押され気味に打ち返すことになってしまうのです。

多彩なショットを使い分ける技術が必要

 多くの選手が多用する「相手をコートから追い出す」スライス系のショットも、ボールがバウンド後にコート外に弾んでいくので、相手選手はコートの幅以上に足を使うことになります。スピンをかけて相手の体に食い込んでいくような角度で跳ねるボディショットや、自分の態勢を立て直すためにロビングで打つスライスショットなど、近年のテニスではスピン方向とスピン量をうまく使って、多彩なショットを状況に応じて使い分ける技術が必要とされているのです。


 錦織選手の新しいウイニングショットとも言える、しっかりとラケットを振り切るドロップショットも、バックスピンをかけることでほとんどバウンドせず、実質返球不能なボールになります。何気ないショットに見えても、世界のトップレベルの選手たちが放つボールはすべて計算し尽くされた的確なものなのです。

最強のオールラウンダー・フェデラーの変化

戦術を変えたことで不振からの脱却を果たしたフェデラー
戦術を変えたことで不振からの脱却を果たしたフェデラー【写真:Action Images/アフロ】

 史上最強のオールラウンダーと言われるフェデラーや、鉄壁の守備を見せるジョコビッチも、こうした技術を満遍なく、そして超ハイレベルで極め、その中で特徴を出しているため、ビッグ4の時代が長く続いているのです。


 ビッグ4の筆頭と言えば33歳を迎えたフェデラーですが、実は2013年のシーズンには一時「引退の危機か?」という不振に陥りました。現在の活躍を見れば分かるように、フェデラーは限界説を打ち破って見事に復活。この復活劇の裏には戦術的な変化が見て取れます。スランプから脱した後のフェデラーのプレーを見ていると、フェデラーのバックサイドを狙って打ってくる相手とのストローク戦を早々に切り上げ、バックハンドのダウンザラインショットを放ち、それをスイッチに早いタイミングでネットに出て攻撃を仕掛けるスタイルを意図的に増やしているのです。この戦術には自コートのバックサイドを狭める効果と、次のショットをフォアサイドで攻撃しやすくする攻守両面の効果があります。そこから積極的にネットに出るプレーにつなげるのですから、これまでのフェデラーと比べてもより攻撃に特化した戦術を採用してきたと言えます。


 33歳にして自身を見つめ直し、先鋭的な攻撃テニスという新しい引き出しを開けたフェデラーは、現代テニスの盟主でありながら、自身が作り上げたストローク主体のテニスに風穴をあける変化を作り出しているのです。

坂井利彰

慶應義塾大学専任講師。1974年生まれ、慶應義塾大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院政策メディア研究科後期博士課程修了。高校時代はU18日本代表、高校日本代表に選出。大学時代は全日本学生シングルス優勝、ユニバーシアード日本代表、ナショナルチームメンバーに選出。プロ転向後は世界ツアーを転戦し、全豪オープンシングルス出場。世界ランキング最高468位、日本ランキング最高7位(ともにシングルス)。引退後は慶應義塾大学庭球部監督に就任。ATP(世界男子プロテニス協会)公認プロフェッショナルコース修了、ATP公認プロフェッショナルコーチ、日本テニス協会公認S級エリートコーチ、日本プロテニス協会理事を務める

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