技術面から見る錦織圭の強さの秘密 もはや常識となったテニスの新潮流とは?
錦織の強さの秘密を、元プロテニス選手の坂井利彰氏が技術面から解説した 【Getty Images】
立体的テニスを駆使するストローカーが全盛
彼らはどんなテニスをするのか? 世界のテニスの潮流、現在地はどんなものなのか? そうした質問を受ける機会が増えているのですが、こうした“世界のテニス”に日本の人たちが目を向けることで、錦織選手の勝利の価値や、ATPツアーを戦う選手たちの本当の凄さが伝わるのではないかと思っています。
現在のテニス界は強烈なトップスピンをかけた“エッグボール”を使ってベースラインから攻撃するストローカーが有利な時代に移り変わっています。従来のディフェンシブなベースラインプレーヤーではなく、コート後方から攻撃的なショットを連発するオフェンシブストローカーと言えば、エッグボールを自在に操るクレーコートの覇者・ナダルが筆頭ですが、フェデラーにしてもジョコビッチにしても、トップ選手はみな、ストロークプレーからの組み立てに長けていて、エッグボールを中心としたスピン量の多いショットを打つ技術は必須と言ってもいいでしょう。これは、単純なスピードやパワーで圧倒する平面的なテニスが限界を迎え、コートの幅や奥行きを立体的に捉え、高さや深さを余すことなく使った3Dテニスが全盛になったからだとも言えます。
ネットすれすれを狙って低いボールを打ち返していた旧来のテニスとは違い、エッグボールはネットの高いところを通過して相手コート深くに突き刺さります。現代テニスでは球足の速さだけでなく、バウンド後のボールの変化も重要です。ナダルの放つ強烈なエッグボールはその名のとおり、卵を半分にしたような軌道で急激に落ち、高く跳ね上がります。こうしたボールは見た目のスピード以上に速く感じられ、差し込まれて押され気味に打ち返すことになってしまうのです。
多彩なショットを使い分ける技術が必要
錦織選手の新しいウイニングショットとも言える、しっかりとラケットを振り切るドロップショットも、バックスピンをかけることでほとんどバウンドせず、実質返球不能なボールになります。何気ないショットに見えても、世界のトップレベルの選手たちが放つボールはすべて計算し尽くされた的確なものなのです。
最強のオールラウンダー・フェデラーの変化
戦術を変えたことで不振からの脱却を果たしたフェデラー 【写真:Action Images/アフロ】
ビッグ4の筆頭と言えば33歳を迎えたフェデラーですが、実は2013年のシーズンには一時「引退の危機か?」という不振に陥りました。現在の活躍を見れば分かるように、フェデラーは限界説を打ち破って見事に復活。この復活劇の裏には戦術的な変化が見て取れます。スランプから脱した後のフェデラーのプレーを見ていると、フェデラーのバックサイドを狙って打ってくる相手とのストローク戦を早々に切り上げ、バックハンドのダウンザラインショットを放ち、それをスイッチに早いタイミングでネットに出て攻撃を仕掛けるスタイルを意図的に増やしているのです。この戦術には自コートのバックサイドを狭める効果と、次のショットをフォアサイドで攻撃しやすくする攻守両面の効果があります。そこから積極的にネットに出るプレーにつなげるのですから、これまでのフェデラーと比べてもより攻撃に特化した戦術を採用してきたと言えます。
33歳にして自身を見つめ直し、先鋭的な攻撃テニスという新しい引き出しを開けたフェデラーは、現代テニスの盟主でありながら、自身が作り上げたストローク主体のテニスに風穴をあける変化を作り出しているのです。