錦織圭、小さな体で世界を魅了した1年 テクニック、勝負強さ――躍進の要因は?

山口奈緒美

躍進を裏付けたジョコビッチ戦

ツアーファイナルで準決勝進出を果たすなど、錦織にとって2014年は飛躍の年となった 【写真:Action Images/アフロ】

 日本中が歓喜した錦織圭(日清食品)の2014年シーズンが終わった。

 最後の舞台は、その年にもっとも強かった男たち8人が集う特別な大会「ツアーファイナル」。その最後の最後で、今年9割以上の勝率を誇る最終セットへ勝負を持ち込みながら1ゲームも取れず、1−6、6−3、0−6での敗退で締めくくったことは、今シーズンの錦織を象徴していなかったかもしれない。
 それでも、ラウンドロビン(1次リーグ)3試合で1セットも落とさずに年末ナンバーワンの座を射止めたばかりのノバック・ジョコビッチ(セルビア)からセットを奪い、一時は流れをつかんだ。わずかなミスから勝機は逃げてしまったが、今年、スピードに磨きをかけた24歳はジョコビッチを上回るウイナーを放ち、長いラリーでの支配力を見せつけた。その試合内容は、今季の錦織の躍進を裏付けるものだったといえるだろう。

 ラウンドロビンでは、これまで3回対戦して勝ったことがなかったアンディ・マレー(英国)にも6−4 6−4で快勝した。世界2位のロジャー・フェデラー(スイス)には敗れたものの、プレッシャーの掛かる最後の試合で、対戦相手がビッグサーバーのミロシュ・ラオニッチ(カナダ)からタイプの全く異なるストローカーのダビド・フェレール(スペイン)に急きょ代わるという難しい状況も克服。こうして、8人からさらに半分に絞られた精鋭の中に名を列ねたのだ。

フェデラーも指摘する錦織の成長

4月のバルセロナ大会でクレーでの初タイトルを手にした 【写真:アフロ】

 今季、錦織の快挙はとどまるところを知らなかった。バルセロナで手にしたクレーでの初タイトル、念願のトップ10入り、初のマスターズ決勝進出を果たしたマドリッド、アジアの男子としてグランドスラム初の決勝進出を果たした全米オープン、プレッシャーの中で勝って初めて涙した楽天ジャパンオープン、そして最後はトップ5の仲間入り――。いいことばかりではなく、腰のケガによる練習不足で1回戦敗退を喫した全仏オープンや、足の親指にできた嚢胞(のうほう)のため欠場大会が相次いだ夏のハードコートシーズンでの苦しみもあったが、終わってみれば「最高といえる一年」だった。

 躍進の背景として、「もう勝てない相手はいない」といった強気な発言が増えたことは、錦織の精神面の変化としてよく語られるが、最初は戦略的なところもあっただろう。まず言葉にすることで、その自覚を高めたということだ。同じ言葉でも口にするたびに力がこもり、自信がみなぎっていくのが分かった。

 だが、フェデラーはこう指摘する。
「自信という言葉で片付けるのは、ちょっと単純すぎるんじゃないかな。ケイは実際にプレーがよくなっている。サーブは確実によくなったし、もともとグラウンドストロークがよくて足も速い。自信なんかで語られる以上に、もっと完成されたプレーヤーだと思う」

 世界で一番の長所を持っていればグランドスラム・チャンピオンになれる、2つ以上持っていれば世界1位になれる――確か昔、そう言ったのは元王者アンドレ・アガシ(米国)だったが、錦織には「世界屈指の」と言われるリターンがあり、足の速さ、スイングスピードなどがある。

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著者プロフィール

1969年、和歌山県生まれ。ベースボール・マガジン社『テニスマガジン』編集部を経てフリーランスに。1999年より全グランドスラムの取材を敢行し、スポーツ系雑誌やウェブサイトに大会レポートやコラムを執筆。大阪在住。

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