錦織圭、小さな体で世界を魅了した1年 テクニック、勝負強さ――躍進の要因は?

山口奈緒美

“ビッグ4”とも互角に戦った

全米オープン決勝で対戦したチリッチ(右)もツアーファイナル初出場を果たしている 【写真:ロイター/アフロ】

 また、冒頭に触れた最終セットの勝率に関しては、歴代選手トップの記録を誇る。中でも今季の数字は驚異的だが、キャリアを通しても79.1%で、2位以下のビヨン・ボルグ(スウェーデン)、ジョコビッチ、ラファエル・ナダル(スペイン)、ジミー・コナーズ(米国)という元王者たちに勝るのだ。

 先に挙げたテクニカルな長所に加え、この数字が証明する勝負強さ、集中力も武器に、この数年テニス界を支配してきた“ビッグ4”とも互角の戦いを見せた。今季の対戦成績では、対ジョコビッチ1勝3敗、対フェデラー1勝2敗、対マレー1勝0敗。ナダルにだけはキャリアでも勝ち星がなく、今季2敗、通算7敗を喫しているが、クレーコートのマドリッド・マスターズ決勝でそのナダルを勝利まであと2ゲームというところまで追い詰めたプレーは忘れられない。最終セットで途中棄権するほどの腰のケガさえなければ……。クレーコートでナダルに勝つという、テニス界でもっとも難しいことの一つさえクリアは現実的だ。

2015年はよりスリリングな新旧バトルに期待

 ただ、近づけば近づくほど“彼ら”が特別だという思いを強くしたシーズンでもあった。5位という位置に来てみて初めて、1位を長くキープしていたフェデラーやジョコビッチやナダルの精神面を「半端ない」と感嘆する。2014年も結局、ジョコビッチが3年連続の年間チャンピオンの座を守り、彼と最後までデッドヒートを見せたのは次の世代ではなく33歳の元王者フェデラーだった。錦織がラウンドロビンで喫した一敗の相手もフェデラーであり、最後に敗れた相手もジョコビッチだった。

「ラファ、ロジャー、ノバックはトップ10の中でもちょっと違う。でも僕たちもすごく近づいている。僕も何回か彼らに勝った。あとは経験。どうやって彼らに勝つかをもう少し知れば、もっともっと近づける」

 We are getting close――錦織の言う「僕たち」の中に、トップに挑む次の世代全体としての責任が強調されている。そう、錦織だけではない。堅固な4強時代に、ついに新たな足音が鳴り響いた2014年だった。2005年全豪オープン以来の“ビッグ4”が一人も決勝に残らなかった全米オープン……マリン・チリッチ(クロアチア)と錦織の決勝戦が象徴的だが、その前にウィンブルドンでは23歳のラオニッチとグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)がそれぞれ初めてグランドスラムの準決勝進出を果たしていた。ラオニッチは昨年一時的に入ったトップ10の地位をより安定したものにし、ディミトロフも初のトップ10入り(最終順位は11位)。

 ウィンブルドンではさらに下の世代からニック・キルギオス(オーストラリア)という新星も現れた。チリッチ同様に、10代での活躍から一度鳴りをひそめて今年復活した選手には、全仏オープン・ベスト4のエルネスツ・ガルビス(ラトビア)も挙げられるだろう。そして最終的に、錦織、ラオニッチ、チリッチの3人がツアーファイナル初出場を果たした。

 だがやはり、シーズンの終わりに人々の心に強く残ったのは、最後までトップと対等に渡り合った錦織だったのではないだろうか。小さな体で躍動感に満ちたテニスで魅せるアジアの星は、2015年、よりスリリングな新旧バトルを期待する世界中のファンの希望の光である。

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著者プロフィール

1969年、和歌山県生まれ。ベースボール・マガジン社『テニスマガジン』編集部を経てフリーランスに。1999年より全グランドスラムの取材を敢行し、スポーツ系雑誌やウェブサイトに大会レポートやコラムを執筆。大阪在住。

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