浦和OBだからこそできるスタッフの仕事 Jリーグで生きる人々 堀之内聖<後編>
主な仕事は企業の要望に応えること
今季から浦和のクラブスタッフとして働く堀之内聖に現在の仕事について語ってもらった 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
06年はシーズン終盤に負傷により戦列を離れたものの、初優勝に大きく貢献した一人と言っていい。今年、浦和のクラブスタッフとなった堀之内は「最も多くの方々に喜んでいただけるのが優勝」だという。もっとも、現在は直接、勝利を届ける立場ではない。その代わりに、異なるアングルから人々に喜びを提供することに日々、汗を流している。
「クラブのパートナー(スポンサー)企業さんの要望に、いかに応えていくか。それが現在の主な仕事になります」
配属先は営業。それもスポンサー契約を結ぶ各企業へのフォローを大きな柱とする「パートナー営業部」の一員だ。現在、堀之内が担当するパートナー企業は20社を数えるという。大切な支援者にいかに喜んでもらえるか。それぞれの要望に応える一方、イベントやスクールの開催などを積極的に提案している。また、法人向け年間シートを購入したパートナーには『レッズビジネスクラブ』という特典があり、ビジネスミーティングと称した講演会などを開いているという。それも重要な仕事の一つだ。
「加入されている146社を対象に講演会や懇親会などを開催しています。今年は現在ガイナーレ鳥取(J3)でゼネラルマネジャーを務めている浦和OB・岡野雅行さんの講演会を開きました。ちょうど山田暢久の引退試合が開催された日ですね」
営業マンとして新規開拓にも関わる
インタビュー中にもセールスシートを片手に熱っぽく語るさまは、いかにも営業マンらしい。現在はパートナー企業に対するアフターサービス(フォロー)だけではなく、新規開拓にも関わっているという。
営業先には選手時代から付き合いのある関係者もいる。直接面識はなくとも、先方が堀之内を知っているケースも少なくない。その点では「ほかの人よりもスタート地点は前にあるかもしれない」という。だが、そこからひたすら頭を下げてお願いすれば購入してもらえる、という単純な話ではない。
「いったい浦和レッズの価値とは何なのか。うちの部署の先輩から、真っ先にセールスシートの中身について、イチから説明してもらいました。営業においてはイロハのイでしょうが、まずは己のことをよく知らないと何も始まりませんからね。自らが理解していないとその良さを伝えきれない。良さを十分に知っていただいた上で、ご理解いただき、協賛していただく流れになるわけです」
ポイントは『レッズの価値の使い方』だという。それを徹底的に頭の中にたたき込むところから始めた。当然、成り立ちといった「そもそも論」も疎かにはできない。営業相手から質問された際、返答に困ることがあってはならないからだ。他のスタッフからは、堀之内がいかなる疑問をぶつけても答えが返ってくるという。
先輩たちの「話術」に舌を巻く勉強の日々
『ビューボックス』を案内する堀之内。先輩の仕事ぶりに触れ、セールスの奥義を学ぶ日々だという 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
「メリットをどう伝え、喜んでいただけるか、という話の持っていき方が重要ですね。ただし、相手が何を求めているかによって、それも変わってくると思います。会話をしながら、それを的確に読み取り、提案する中身を変えていく必要がある。当然ですが『彼を知る』ことも等しく大切だと」
いまも交渉、提案の席で先輩たちの「話術」に舌を巻くことも少なくないらしい。人とコミュニケーションを取ることに苦手意識はないが、一度、話を始めたら、全く途切れることのないトークの質と量を素直に「すごい」と思うのだという。しかも、こちらから一方的に話すのではなく、しっかり先方の話も引き出すのである。新人にとって、勉強にならないはずがない。
こうした能力をいかに身につけるかは、どれだけ場数を踏んだか、という話と無縁ではないかもしれない。いわゆる「経験」である。その一方で堀之内は「知識」の必要性も痛感している。己を知り、彼を知る――それだけでは足りないともいう。営業を重ね、数多くの人々と接することで、その思いは一層、強くなっているようだ。
「当然ですが、本当にいろいろなタイプの方々がいます。政治、経済、レクリエーションなど、それぞれの関心事は多岐にわたっています。幅広い知識がないと知らない話題になった途端、会話が続かなくなってしまう恐れもありますからね。その場合、どうやって次の展開に持っていくか。それも重要だと思いました。誰と話していても、笑顔にさせてしまう。そうしたコミュニケーション力を身につけたいですね」
幅広い知識を蓄えるため、一般紙に目を通すのはもちろん、テレビを含めた多種多様なメディアが報じるニュースをチェックする毎日だという。常にアンテナを張っているわけだ。とりわけ、パートナー企業に関する情報に関しては人一倍敏感になっておかなければならない。現役時代には想像もしなかったことである。