浦和OBだからこそできるスタッフの仕事 Jリーグで生きる人々 堀之内聖<後編>
迷ったらサッカーに置き換えて考える
堀之内は「どうすべきか」と迷ったらサッカーに置き換えて考えるという 【写真:アフロスポーツ】
またスマートフォンに名刺管理アプリを忍ばせ「万が一に備え、チェックしています」と笑う。すでに30代半ばのルーキーにとって、しんどいと感じることも少なくないだろう。だが、現役時代に粘り強い守備を身上とした苦労人には逆境に直面しても根を上げないタフさがある。
「選手時代から『負の側面』を力に変えて、一つひとつ乗り越えてきたところがありました。ようは、負けず嫌いなんです。見返したい、負けたくないという気持ちがベースにあるのかもしれません」
最近では「どうすべきか」と迷った際に、ひとまず「サッカーに置き換えて考えてみる」ことが習慣になったという。営業先で先方(のニーズ)を知る。それをサッカーに置き換えるなら、ストロングポイントやウイークポイントを探りだすスカウティングに近い。その作業を一通り終えたら、次はそれにどう対応していくかを考える。戦略、戦術の立案だ。
「こうしてサッカーに置き換えて考えてみると、すんなりのみ込めるんです。なぜかは分かりませんが」
根っからのサッカー人ということだろうか。あまりにも畑違いの仕事や環境にネガティブな感情を抱くケースもあるが、滑らかな口調からはポジティブな印象ばかりが伝わってくる。数カ月後にJクラブの営業スタッフにとって「繁忙期」に当たるシーズンオフがやって来るが、好奇心の強い堀之内にとって不安よりも楽しみの方が多いのかもしれない。
地に足をつけ、一生懸命に前へ進むだけ
地に足のついた物の考え方は、現役時代から変わっていない。35歳の新人はただ一生懸命に前へ進むだけだ 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
スーツ姿になっても、地に足のついた物の考え方は、現役時代から少しも変わっていない。まずは小さなことからコツコツと――。あくまで堅実な歩みをよしとする。根気や持久力はありそうだ。直属の上司である戸苅淳は、そんな粘り強いパーソナリティーを持つ堀之内に期待を寄せるところが大きい。
「いろいろなタイプの人間がスタッフとしていることがクラブの強みになると思うんです。元選手もそうですね。ホリ(堀之内)だからこそ、選手側に伝えられることがあるし、聞く耳を持ってもらえることもあると思います。クラブの中でも営業の仕事は最もビジネス寄り。まずはそこから経験していくことがいいんじゃないかと思いました。環境が全く違いますから。もちろん、期待はしていますよ。ただ、それがプレッシャーになるのはよくない。だから、本人には言っていません。内緒ということで」
大変恐縮ながら、その思いを本人に伝えたところ、思わずギクリとするような答えが返ってきた。
「2年後に辞めていたら、どうしようかな」
もっとも、笑顔で語る目の奥に迷いや不安などはなかったように思う。むしろ、軽口をたたけるほどの明るさ、ポジティブな思いが感じられた。未知との遭遇に生来の好奇心をくすぐられているように映った。
とにもかくにも、入社1年目である。
怖い物知らずとは、ルーキーの特権だろう。堀之内が本当の「怖さ」を知るのは、まだ先の話と言ってもいい。周囲から寄せられる期待をプレッシャーに感じるのは、それからだろうか。従って、いまはただ一生懸命に前へ進むだけだ。千里の道も一歩から。ローマは1日にしてならず、である。35歳の新人は最後に笑顔で、こう締めくくった。
「2年後、どうなっているか。乞うご期待ですね」
(協力:Jリーグ)