マブスが富樫勇樹と契約した理由 真の“NBA選手”となるまでの険しい道
交わした契約は“ノンギャランティ”
NBAのマーベリックスと契約した富樫勇樹。しかし、まだ“日本人2人目のNBA選手誕生”というわけではない 【写真は共同】
日本人選手がNBAチームと契約を交わしたのは田臥勇太(現リンク栃木ブレックス、NBL)に次いで史上2人目だ。そのことは素晴らしい快挙であるのだが、その一方で、マブスと正式に契約したといっても、それだけで“日本人2人目のNBA選手誕生”というわけではないということも付け加えておかなくてはいけないだろう。
富樫がマブスと交わしたのは“ノンギャランティ”、つまり支払保証なしの契約だ。NBAではレギュラーシーズンに入る前のトレーニングキャンプに参加する選手は、開幕ロスターに残る可能性があってもなくても、全員が契約を交わす決まりになっている。富樫も含め、開幕ロスターに残る可能性が低い選手はノンギャランティの契約を交わし、開幕ロスターに残った場合はチームに在籍した間に行われた試合数に応じて契約で定められたサラリーが支払われる。一方で、開幕前に解雇された場合、その契約は完全に破棄され、チーム側には一切の支払い義務がなくなる。
実際のところ、マブスは今シーズンの開幕ロスターに富樫を残すことは考えていない。マブスのGM、ドニー・ネルソンも、富樫が現時点でNBAロスターに入る可能性について、地元紙の記者に“long shot at best”という表現を使って説明している。つまり「万が一のごく低い可能性があるかないか」というわけだ。開幕前に解雇することが前提のキャンプ招待だったことが分かる。
マブスの狙いはレジェンズに加入させること
査証発給のタイミング次第で、富樫はプレシーズンの試合に出られないことも十分に考えられる 【写真:アフロスポーツ】
それでも、マブスが今回、富樫をトレーニングキャンプに呼び、すぐに破棄することになる契約を交わしたことには明確な意図があった。その意図とは、NBAの下部リーグ、Dリーグのチームで、マブスと提携しているテキサス・レジェンズに入れることだ。Dリーグはシーズン前にドラフトによって選手を各チームに振り分けるのだが、提携のNBAチームのキャンプに参加していた選手はドラフトを経ることなく、直接チームに入れることができる。マブスが富樫と契約した狙いはそこにあった。
実は、ネルソンはマブスのGMであると同時に、レジェンズのオーナーでもある。そのネルソンは、「私たちが(富樫をマブスのキャンプで)見ることができる期間は限られているが、彼にとって本当のチャンスはテキサス・レジェンズにある」と言っている。ネルソンはさらに、こうも言っている。
「これは、彼(富樫)にとっては、レジェンズでプレーするという夢が実現するチャンスだ。そして、これまでDリーグでプレーしてきた選手たちが皆そうであるように、Dリーグを踏み台にして、NBAを目指すことができる」