マブスが富樫勇樹と契約した理由 真の“NBA選手”となるまでの険しい道

宮地陽子

レジェンズでプレーするメリットとは?

富樫の主戦場はしばらくDリーグのレジェンズとなりそうだ。 【写真:アフロスポーツ/bj-league】

 富樫は7月のサマーリーグでは4試合に出場した。そのうちの1試合では10分51秒の出場で12点を挙げて注目を集め、現地でも話題となった。それだけでNBAに入れるほどの活躍ではなかったが、7月30日に21才になったばかりという若さもあり、マブスとしてはこの先どれだけ成長できるのか、レジェンズに入れて試してみたいと考えてのことだった。確実ではないが、年俸3万ドル(約320万円)のDリーグでなら、そんな賭けをすることもできる。

 マブスにとって、提携しているレジェンズに選手を送るメリットはいくつかある。マブスの本拠地とレジェンズの本拠地の距離は40キロ弱と近く、いつでも試合を見ることができるのに加え、単独提携をしているため、コーチ陣をマブスで選び、自分たちと同じオフェンスやディフェンスのシステムで戦うことができる。つまり、自分たちのシステムに合う選手を見極めやすくなり、マブスにコールアップすることになった場合も、新たにシステムを学ぶことなく、スムーズに移行することができるというわけだ。

167センチでもやれることを示せるか

 マブスが、富樫を将来のマブスのロスター候補とみなしていることは間違いないのだが、ネルソンGMが言っているように、現状では実際にロスター入りできる可能性は低い。身長180センチ以下の選手が数えるほどしかいない中で、富樫はひときわ小さい167センチ(NBAでの登録身長170センチ)。サマーリーグではスピードとバスケIQを生かし、大男の中でも得点できるところを見せたが、レジェンズでは1試合だけでなく、シーズン通してできることを見せなくてはいけない。ディフェンス面でも、たとえ身長では負けても、フィジカル面や気持ちの面では引けを取らないところを見せ、大きな穴にならないことを証明しなくてはいけない。身長というマイナス要素はなくなるものではないだけに、それを差し引いても使いたいと思わせるだけの選手だと認識させなくてはいけない。簡単な道ではない。

 幸い、レジェンズの球団社長は、彼自身、富樫と同じ登録身長でNBAに14シーズン所属したスパッド・ウェブ。ネルソンGMによると、ウェブはレジェンズの試合にはいつもいるという。同じ身長でもNBAでやれるというお手本が身近にいるということは、富樫にとっては最高のインスピレーションとなりそうだ。

 何にしても富樫のNBAへの挑戦はまだ始まったばかり。この先の道は険しく、多くの障害を乗り越える必要があるだろう。「NBAでプレーすることは簡単なことではない」と言い続けている富樫だけにそのことは十分に分かっているようだ。厳しさを理解した上で、それでも夢に向かって大きな一歩を踏み出した。

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著者プロフィール

東京都出身。国際基督教大学教養学部卒。出版社勤務後にアメリカに居を移し、バスケットボール・ライターとしての活動を始める。NBAや国際大会(2002年・2006年の世界選手権、1996年のオリンピックなど)を取材するほか、アメリカで活動する日本人選手の取材も続けている。『Number』『HOOP』『月刊バスケットボール』に連載を持ち、雑誌を中心に執筆活動中。著書に『The Man 〜 マイケル・ジョーダン・ストーリー完結編』(日本文化出版)、編書に田臥勇太著『Never Too Late 今からでも遅くない』(日本文化出版)がある。現在、ロサンゼルス近郊在住。

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