岩政大樹が感じたタイリーグの現状と収穫 凝り固まった価値観を揺さぶる1年

本多辰成

タイサッカーを変えるのは日本人ではない

岩政は日本サッカーの進出が必ずしもタイの前進につながるとは限らないと話す 【本多辰成】

――Jリーグ創成期には、大物外国人たちの参戦が日本の成長につながった面がありました。今起きている日本サッカーのタイリーグ進出は、同じようにタイサッカーの前進につながるでしょうか?

 つながるかどうかはタイ人次第で、それは彼らが選ぶことだと思うんです。僕がそれに関わらないという話ではなくて、彼らが選ぶしかない。本当に日本に追いつこうと思うなら組織全体が変わらなければいけないし、それには痛みも伴います。日本人はそれを選んで、20年間やってきたということです。

 たとえば鹿島にジーコが来たからといって、ジーコが示したものを継続してやっているのは鹿島の人たちです。特に僕らは選手ですから、その指針というか、そういうものを示すしかないですよね。僕らが変えるわけじゃない、それがこっちに来て分かったことです。

――現時点では、タイがそれを選ぶかどうかは分からない?

 そうですね。1年とかの話ではなくて、この先それを考えていけばいいと思う。日本のやり方がすべて正しいわけではないし、タイ人にはタイ人の気質に合うやり方があると思いますから。すべての国がナンバーワンを目指さなければいけないわけでもないし、今のタイサッカーを変えていくかどうかはタイ人が決めることです。

タイリーグの日本人選手の実情

――一方で、今シーズン本格化した日本人選手のタイリーグ移籍の流れは今後も続くと思いますか?

 どうでしょうね。日本にいると、これだけの数の日本人が来ているということは日本人がすごく評価されているように感じますけれど、実際にはみんなが活躍しているわけではありません。ほとんど試合に出られていない選手や、契約打ち切りになる選手も少なくない。それはちゃんと伝える義務があるんじゃないかとは思います。

――今季は平野甲斐選手がブリーラムでの活躍が認められてセレッソ大阪への移籍を果たしました。今後、タイは若手のステップアップの場としても可能性があるでしょうか?

 大事なことはどこにいるかではなくて、そこで何ができるかだと思うので、何をもってステップアップというのかもちゃんと考えなければいけない。たとえば本田(圭佑)もミランで半年苦しみましたが、日本人は、どこのリーグ、どこのチームにいるのかということばかり気にするところがありますよね。

 J1にいればすごいとか、タイだとステップダウンだとか、そういう単純なものではなくて、どこで勝負して何を得たいかということだと思うんです。これからタイを中心として東南アジアのサッカー市場はどんどん広がっていくし、日本人選手の選択肢も広がると思いますが、そこはちゃんと考えなければいけないと思いますね。

「すべてが違う」タイで得たもの

テロ・サーサナのスタジアム。すべてが違うタイの環境から岩政が得たものとは 【本多辰成】

――岩政選手にとって初めての海外リーグで、得たものは何ですか?

 海外に出たから得られた、という安易なものはないと思います。日本は島国なのでどうしても、外に出ると得られる、みたいな考え方がありますが日本にいても得られるものはもちろんある。ただ、日本とは全然価値観が違うところがタイにはあるなかで、僕自身、この1年で得られたものはありました。

「日本とタイで何が違います?」とよく聞かれるんですが、1つ、2つ違うわけじゃなくて、ある意味すべてが違うんです。日本で10年間凝り固まっていたもの、それが当たり前だと思っていたものが当たり前じゃなかった。サッカーに対する価値観もそうだし、人生の価値観もそうだし、凝り固まったものがちょっとほぐれた。それが僕にとっては一番大きかったところでしょうね。

――タイでの時間は、これからのサッカー人生にどうつながっていくでしょう?

 僕自身はもう、現役はそんなに長くないと思いますので、どういう終わり方をしようかというところに少しずつシフトはしています。その終わり方をにらみながら、どういう選択をしていくのか。その上で、契機になる年だったとは思います。

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著者プロフィール

1979年生まれ。静岡県浜松市出身。出版社勤務を経て、2011年に独立。2017年までの6年間はバンコクを拠点に取材活動を行っていた。その後、日本に拠点を移してライター・編集者として活動、現在もタイを中心とするアジアでの取材活動を続けている。タイサッカー専門のウェブマガジン「フットボールタイランド」を配信中。

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