ラグビー界の「坊ちゃん」が描く夢 7人制で注目を集める成城大・石塚

向風見也

「藤田より速くなる」可能性を秘める

スピード強化の専門家から潜在能力を高く評価されている成城大・石塚弘章 【向風見也】

 君はなぜ、足が遅いのか――。

 スピード強化の名士であるディーン・ベントンは、成城大で当時2年の石塚弘章にこう話したようだ。

 2014年2月下旬、千葉・長生郡にある日本メディカルトレーニングセンターである。男子7人制ラグビーの日本代表候補選手らが「第12回セブンズシニアアカデミー(SSA)」を行っていた。ゲスト参戦となる東京セブンズが3月22日から2日間、香港セブンズのコアチーム昇格決定大会が28日から3日間と、2つの大会を控えていた。注目が集まるなか、15人制代表のエース候補である早稲田大2年だった藤田慶和や筑波大2年だった福岡堅樹も加わっていた。

 ただ、S&C(ストレングス&コンディショニング)コーディネーターとして一時合流したベントンは、メンバー選考にほぼ無関係であろう「練習生」にも期待感を抱いた。骨格、ランニングフォームにほれたのだ。そして、ひとつの結論を本人に伝えたという。

 君にはナチュラルな筋肉が足りない。ただ継続してトレーニングをすれば、きっとフジタよりも速くなる――。

下部リーグに所属する身長188センチのフルバック

「正直、トップレベルでのトレーニングはなされていないんです。だから、周りの方は言います。ポテンシャルはすごい、と」

 成城大の井手光裕監督は言う。チームは昨季、全国の覇権を争う帝京大、早大が所属する関東大学対抗戦Aより1ランク下のBで最下位だった。フルタイムの指導者はおらず、今季就任した井手監督も普段は会社経営者だ。英才教育のなされぬ環境にあって、石塚は各所から推薦されSSAに参加した。

 15人制では司令塔のスタンドオフ、最後尾のフルバックを務める。身長は当該ポジションにあっては大きい188センチ、体重はベントンと出会って以来5キロ増の85キロ。手足が長く、井手監督によれば「進撃の巨人みたいな」ハンドオフで敵のタックラーを優雅にはねのける。

 春だったか。日本最高峰トップリーグのヤマハでスタンドオフを務める大田尾竜彦が、成城大の練習を見に来たことがあった。水田隆裕バックスコーチと幼馴染だった縁からだ。ボールを高く蹴り上げるハイパントの滞空時間を実測すると、3年になった石塚は、同じくヤマハ所属で日本代表のフルバック・五郎丸歩より「少し、短いくらい」の記録を出した。

7人制日本代表としてアジアを転戦

 今年度のSSAにもしばし招集がかかり、8月下旬は香港、9月上旬はマレーシアと、アジアセブンズシリーズにも参戦した。たとえ他選手の招集辞退の結果だったとしても、正真正銘の7人制日本代表である。本人としては貴重な経験を積んだ。瀬川智広ヘッドコーチ(HC)には「コーチャブル(教えられる)能力」を褒められたものだ。

「ワールドシリーズに行く選手に育てようと思うと、少し壁はある。ただ、ラグビーに関して教えたことは何でもできる」

 原石、発掘。スポーツ界が好む物語を紡ぎそうではある。

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著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

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